証拠開示に特化した研修を依頼された。
これまで整理手続研修なら数十回くらい引き受けてきたが、証拠開示に特化した研修というのは初めてであり、改めてレジュメを書き下ろして準備をした。
書いてみると案外、難しいもので(思うに、証拠開示は争点整理や尋問準備と密接に関連しており、それ単独では無く、一連の防御準備の中の中核的作業として学習すべきことが図らずも実証されたと受け止めている)、僅々2万字弱のレジュメ作りに構想から数日を要したが、先ずは完成に漕ぎ着けた。
ところで、当地では控訴事件を扱う機会も多いので、必然的に原審の他の弁護人の弁護活動を批判的に検証することになるが、「認め事件」はおろか、否認事件ですら、証拠開示を行っていない場合が相当数ある。というか、任意開示で満足しきっているものの如何に多いことか。目撃証言の信用性が争点となり、目撃証人の尋問を行っている事例で、初期供述の開示を受けていない(事件発生時に即通報しているのに、調書の日付は事件から一月以上が経過しているのだから、初期供述が他にあることは見え見えであり、一体どういうつもりなのだろうかと神経を疑う・・控訴審で指摘すると直ちに開示された)ものや、「診療経過は別添資料参照」とあるのに「別添資料」の開示を受けないまま証拠同意している事案など、見ると頭がくらくらする程だが、何れもここ数ヶ月以内の事例ばかりだから笑えない。
布川再審国賠は「弁護人から、具体的に開示を請求する証拠が特定された証拠開示の申立てがあったような場合」に一定の条件下で検察官に証拠開示義務を負わせたが、(任意開示に於いてある種の誤魔化しがあることは別論としても、)弁護人が独自の視点から積極的に指摘しないと始まらないということでもある。
弁護人が証拠開示を特別なものと思わなくなるまで、意識改革を叫び続けなければ、この種の被害事例は陸続と量産され続けるだろう。
手続保障を顕現させること、及び、防御準備に資するという両面に於いて、あらゆる事件で証拠開示を行わない理由はなく、証拠開示に特化した研修は、時宜を得たものであると思う。講師側としても楽しみである。
(弁護士 金岡)