私が行う捜査弁護研修で必ず取り上げる一つが、「被疑者の自己防衛力を高めるためには、黙秘権、署名押印の拒否権等という大上段なところよりも以前に、まずは弁護人が被疑者の日常を理解するところから始める必要がある。」ということである。
その置かれた環境の過酷さに思いを致さず弁護人だけが暴走しても被疑者が着いて来られなければ意味はない。手紙の投函一つをとっても我々の想像を超えたところに置かれていることは理解せねばなるまい。

ということで、最近、愛知刑事弁護塾の研修で、未決拘禁体験を有する方を講師にお招きして、忌憚なくお話し頂き、遠慮なく質問をぶつけるという企画を開催した。講師の方には、話しづらい内容を倦むところなくお話し頂き、改めて感謝申し上げる。

私自身、依頼者からコツコツと集めた情報をもとに、その生活状況の一端を研修で披露はするのだが、警察署により千差万別なのであろう、今回の企画でも随分と認識にズレがあることに気づかされる。一筋縄ではいかないが、結局のところ、地道に依頼者から聞き取り、その日常に思いを致すしかないというところか。

今回の講師曰くで驚かされたところをいくつか紹介しておく。

1.椅子も机もない。
食事も地べたに置き、手紙も地べたで書く。
慣れてくると、六法を膝の上にのせて机代わりにもしたという。
食事も地べた・・それはひどい、と思う。

2.朝は決まって菓子パン2個。諸手続きで外出していると昼も菓子パン2個。
いわゆる「官弁」は油ものばかりで、自弁を含め新鮮な野菜も汁ものもないとのこと。
放っておいても病気になりそうな環境だ。講師も油もので腹を下したそうである。
白湯が配布されるのだから、カップ麺やインスタント味噌汁があれば、どんなにか潤うと思うのだが、そういうことはないのだとか。生ものが難しいのは分かるがインスタントがダメなのはどういう理屈なのだろうか。

3.検室は毎日。
部屋から出され寝具入れの方を向かされる。
管理されていることを思い知るのだそうだ。

4.姿勢は自由。静かにしている分には問題ないとのこと。
ここは拘置所と違うように感じた。

5.検察弁録から勾留質問に至る一日は、無為に待たされ、その間、腰縄手錠は外されず、非常に辛いそうだ。「明日は一日外出だから取り調べに晒されず楽だ」とはいかないようで、認識を改めなければなるまい。

6.コンビニでの自弁は、メニューが限られ、購買意欲をそそられないとのこと。しかも届くまで3日、待たされる。
切手や封筒も、収容されて他から入手できない場合、コンビニで買うしかないので、3日、待たされることになるとのこと。
私の捜査弁護研修では、初動の差し入れ用持ち物として、切手・ノート・便箋・封筒・フェルトペンを推奨しているが、とても助かるとのことで、10年経っても一向に変わらないものだ。
なお、待たされるつながりで、新聞を自弁で購入しても2日3日待たされるから、まったく「新」聞ではないのだそうだ。

7.健康診断は、アクリル板越しの面会室で形式的な問診のみ。
アクリル板越しでは触診も観察もできまい。
どうりで健康被害が後を絶たないわけだ。

8.入所案内は口頭説明のみで、反則行為の説明も配布されない。
なにが反則行為かわからないまま懲罰を受けたりするとのこと。

9.訴訟記録を手元に置けるのは寝具入れの19時までだとのこと(本は消灯までいける)。被疑者ノートも同様に19時まで。寝具入れの時に室外のロッカーにしまわされるが、ロッカーは当然、留置の管理下に置かれるので、被疑者ノートの盗み見を防止する術はない。防止する術がないことを前提に書くしかないのだそうだ。

(弁護士 金岡)