自己矛盾供述を法廷に顕出する方法は、弁護士が強く法廷技術を意識するようになって以降に一頻り議論され、199の11説や199の10説、328条説(示させない)など、様々な見解と訴訟指揮が飛び交ったが、ここ数年、「最終的に328条で出すかどうかはともかく、199の10で示して顕出し、弁護人に於いて328条の要否を検討する」というのが一つの標準形として落ち着いたのではないかと認識している(但し当社比に過ぎないが)。

その「数年」ぶりに、199の10で示して顕出することを制限されたので、折角(?)のこと、法廷での応酬を公開しておくことにする。
実のところ、この問題は、手続的な側面で観察するのか実体上の側面で観察するのかで微妙に結論が割れるかも知れないと思っているが、私としては、弁護人が事案毎に自己矛盾供述をどのように法廷に顕出するかは裁量的に決するべきであって裁判所が介入すべき事柄ではないことを前提に、正に供述人が当該自己矛盾供述記載の供述調書を確認して合理的説明がなし得ない事実(但しそれは検察官が再主尋問で挽回を図るかの問題である)を立証する上で199の10により示して顕出することは当然にできる、と考えている。

見解に相違があるのはやむを得ないこととして、尻腰の立たない柔弱な訴訟指揮のためにぐだぐだと20分くらいは尋問が中断し、不本意な展開ではあった。自身の訴訟指揮に自信があるなら、すぱっと訴訟指揮権を行使すれば良かろうに、と思うし、それができないなら出しゃばるな、と言いたい。

【尋問録(担当裁判官、戸崎涼子)】

弁:(A)という記載のある供述調書があるのだけど、記憶にないですか。

証:………ないです。

弁:同一性確認のために、証人の員面調書の該当部分、署名指印部分を示します。

検:それも、もう、読み上げて、ぶつけてもらつて、こういう事実でその調書を作った ということを確認していただいていいですか。

弁:記憶がない とおっしゃるので、もう、それを示すしかないのですが。

裁:今、趣旨を示していただいていましたが、ある程度読み上げる分には構いません。

検:その前後3ページぐらいになっているか分かりませんけど、ざあっと読み上げて。

弁:もう該当部分は読み上げたけども、心当たりがないとおっしゃるので、弁護人としては、これは、328条の請求に備えて同一性確認をするというだけの話です。これは、裁判所の許可が要るわけではない。同一性確認のために必要であれば示せます。

裁:いずれにしても、そういった記載があることに関しては。

検:はい。それは、争いはしませんので、それを前提に。

弁:ただ、漠然としますので、きちっと見ていただいて同一性確認をするのは弁護人の権利ですから、そこは譲らないです。

検:じゃあ、細切れに、こういう供述調書になってますけ ど、これは、これは、これはと言つて。
弁:該当部分を示して終わりですよ。弁護人の立証方針ですから。

裁:いずれにしても、ある程度読み上げていただいてからということでも。

弁:読みました。

裁:2ページか3ページということですけれども、ある程度読み上げて。

弁:いや、二、三行です。全体で 4行しかないもので、そのうちの2行の部分が読むところです ので。

裁:4行ということであれば、ある程度読み上げていただいて、それで聞いていただくのでもよろしいですか。

検:はい、全部読み上げていただいて。

裁:じやあ、よく聞いていてください。

証:はい

弁:(B)。こういうことを言いましたか。

証:すみません、記憶にないです。

弁:じやあ、示します。

裁:ちょつと待ってください。示す趣旨は何ですか。

弁:同一性確認です。

裁:いずれにしても、そういった記載があること自体は、検察官も特に争うということではないわけですよね。
検:はい、争わないです。
弁:ただ、これに関しては同一性確認で示す、328で請求するというのが通常の手順ですから。

裁:328で請求、証人に同一性を確認するということですか。

弁:そうです。彼の署名指印部分があるという調書に、そういった一― 。

裁:署名指印部分があるということを。

弁:両方示します。それは、セットで示さないと同一性確認 になりませんから。

裁:いずれにしても、署名指印部分は構わないかと思いますが。

検:はい、構わないです。

裁:いずれにしても、それを前提としてそれに関する証言を得ようとする、記憶喚起等の趣旨ではもちろんないということでございますね。

弁:もちろんないです。

裁:どういたしましょう、検察官。そこの部分と署名指印ということでございますが。

検:署名指印だけは構わないですが。

裁:328を行うことに関 して、検察官がそういった記載があることを特に争わないとい うことであって、ただ、証人がその記憶がないと述べられているのみであれば、署名指印部分のみの確認で足りるのではないかと思われるところでございますが。今 、証人に証言をいろいろいただいているところですので、 同一性ということであったとしても、署名指印部分のみを示して 、あとは、その記載部分が供述調書にあることは争わないということで、328の要件の立証をしていただいたことになるのではないかと。

弁:ここについては、記載内容がきちっと正確に読み上げられているということを担保する上で、示すのが当然です。それは、弁護人の立証の権利ですから、裁判所が制限することはできません。

裁:ただ、立証の権利でこれ 、328の要件立証のためということでございますよね。

弁:署名指印部分と、間違いなくそういう記載があるということ。そんなことは言つてませんなどと本人が言わないように、署名指印部分と、該当記載のある部分を確認させる。

検:調書にそう書いてあるけど、そういうことを言つてないわけではないんですよねって、質問を端的に。

弁:それは結局 、ふわっとしたファジーな立証であって、しっかりとした主張にはなりませんから。どういう記載がある調書かっていうことを確認するのは当たり前でしょう。

検:それは 、まず署名指印を見ていただいて。

弁:署名指印は当然です。ただ 、該当部分を示さなければ、その調書に本当にその記載があるのか、結局分からずじまいですよね。

検:いや 、読み上げられているので。

裁:いずれにしても、弁護人が先ほど来読み上げられた 、問題とされている記載が調書にあるということですが、あなたは、記憶にないとおっしゃってますけれども、そういった記載があることについて、あなた自身はその点を特段否定するという御趣旨の発言なのか、それともそうではないのかということが今問題となってるんですけれども、その辺りはどうなんでしょうか。後から署名指印を確認してもらうということもありますが、そういったふうに調書に書いてあるということに関して、それを前提としてある程度聞いていただくということでもよろしいかと思うんですが。

弁:前提とする気はないんです。弁護人は供述存在を立証するだけですから、前提でも何でもないんですよ。この存在自体が 、彼の証言の信用性を弾劾するので。どうしてお分かりにならないんですかね 、 328とはそういうものなんですよ。供述存在を立証するものです。

裁:もちろんそ うですが一―。

弁:だから、前提として聞きたいわけでもなければ、思い出してほしいわけでもないんです。弁護人は、ただただ当該調書にはこういう記載があって、彼の署名指印があるとい う供述存在を立証するだけです。そのために 328が 199の 10で同一性確認で示すというのが通常の理解ですし、通常の取扱いで、これは裁判所の許可も要らないので、裁判所が訴訟指揮で制限しない限り、示します。

裁:もちろんそうですが、その要件立証に関して、今、その点について聞いている証人に調書を示すことが必要になるのか どうか。先ほど検察官がおっしゃつたように、質問で確認してもらうことはできないんでしょうか。

弁:もう正確に読み上げたじゃないですか。それでも覚えてないとおっしゃるなら、調書で確認を求めるだけのことです。

検:そうではなくて、そういうふうに調書に残つているけど――。

裁:覚えてない というのが問題 なんですか。

検:ええ、そうです。聞き方を変えていただいて。その取調べを受けた一―。

弁:弁護人は供述存在を立証するだけですから、最も端的なのは、本人に示して、それがあるということを確認させるだけで、それ以外の方法を選択するいわれはありません。

裁:その供述存在について、検察官は特に争わないということですよね。

検:争いません、はい。調書がそういう記載になっているということ自体も争わないので。

弁:弁護人が一言一句正確に読み上げたことを確認するのは、通常、当該調書の名義人である証人です。証人に確認させるのが端的ですよね。彼の調書にそういう記載があるという、彼の直接経験なんですから、彼に示すのが当たり前ですよね。

検:その署名押印部分を確認していただけばいいです。

弁:いいですか。こういう記載がある調書に署名押印したということは、証人の体験事実ですよね。それを証人に聞くことをどうして邪魔されなければいけないんですか。あなたは、こういう記載のある調書にサインしましたね、 間違いないと書いてありますねというのは、通常の手順です。何度も言いますが 、 328条の前振りとして、同一性確認で行う通常の手順です。

裁:そこの辺りについて一― 。

弁:あるかないかではないですよ。こういう調書にサインしたということを、署名指印部分と該当箇所を示すことによって 、弁護人が立証するんです。それが必要ないから制限すると言うのなら、訴訟指揮権を行使してください。そうでない限り、そもそも要許可事項ではないので、これ以上長引かせるのは本意ではありませんから、示します 。

裁;必要がないように思われるところですが。検察官は、その点の要件立証について 、その供述存在の限りでは特に争われていないということでございますよね。

弁:制限するなら制限するとおっしゃればいいんですよ。私は示しますから。

裁:整理いたしますと、328条の供述存在の立証のみに関して 、今 、示されようとしているということでございますね。 ただ 、検察官は、その供述存在については争わないということでございますね。

検:はい

裁:ですので 、328の訴訟法上の問題としては、もう既に要件立証について 、そこまでの必要性がないと。ただ、そこに限つてであっても、やはり、今 その点について聞い ているところですので 、供述調書のその部分を示すことまでは必要がないのではないかと思われます。確かに弁護人に正確に読み上げていただいたところですので。

弁:正確に読み上げたことを、どうして裁判官は分かるんですか。分からないでしよう。

裁:おそらく、それをある程度チェックしているのは検察官ですので。

弁:彼の調書ですよ。弁護人が問題としているのは、彼が従 前こういう調書にサインしたという事実を立証しなきゃいけないのに、どうして当該調書を本人に示すことができないのか。

裁:署名指印の部分はもちろんよろしいかと思います。

弁:署名指印は示します。 こういう記述が含まれているものだと分かってサインしたんですねっていうことは、当然ながら、訴訟法的に意味を持ちますよ。

裁:確かに長引かせるのは相当ではないところですが、この点について、検察官は、御意見はいかがでしょうか。それは不同意の書証ですので、正確性について疑義があるのではないかと言われると、裁判所もそこまでは。検察官は、正確性については何か。

検:先ほど読み上げたとおりで特に争いませんし、署名押印又は署名指印部分を示していただけば、その当時、そういう内容で調書を作つてもらつたという事実自体は証人自体も認めることになりますので、それ以上質問される必要はないと理解しております。

裁:328条の要件存在については特に争わないということですか。供述調書にそういつた記述があるということ自体については。

検:はい。そういう記載がされているということ自体は争いません。

裁:それでは、その点については争わない とい うことですので、まず、署名指印部分のみ示す形 で聞いていただけますで しょ うか。

弁:後でその場面が来た ときに正式に制限 されれ ば、示すのはや めます。それで
ない限 り、従 ういわれはあ りません。
(署名指印部分を示す)
(中略)
弁:では、弁護人 としては、この調書の7ページにそういう4行の記載が含まれていて、証人がそれを確認した上でサインしたんだということを証明するために、7ページの該当箇所4行を示します。

検:異議があ ります。必要性 がないです。

裁:もう、記載があるとい うことを前提 に聞いていただけば。

弁:要許可事項ではないので、裁判所の許可は要らないんです、 199の10ですか ら。ただ、裁判所が訴訟指揮権 によって制限すると言われるなら制限されればいいですが、制限するとおっしゃらない限り、私は、示す権利がありますので、示します。

裁:同一性ということになるかどうかということ、同一性ですから許可は要らないとい うことか と思われ ますが、この点について、検察官からは、同一性であつて も必要性がないんではないか とい うところを。

検:そもそ も、通常、通常 とおっ しゃ られているんですが、通常そ うい う方法になつているのか どうかも疑問なんですが。 同一性 を明 らかにす るために示すという要件 に該当 しないです し、仮に、当たるとしても必要性がない という二段構 えの意見を申 し上げさせていただきます。

弁:あなたがサインをす る前に見たのはこの調書ですね と確認することが、同一性確認以外であるはずはあ りません。したがって、 199の 10に 該当するということは明 らかです。その上で、弁護人 としては、弁号証 として今後活用 してい く上で、彼が、 こ うい う内容が書いてある調書だ と分かつた上でサインを した、 という事実関係 を立証す る上で必要性がある 199の 10で示します。

裁:ただ、同一性 とい うことであった として も、必要性がない とい う検察官の御意見でございますので、 これは示 さない形で聞いていただけますで しょうか。

弁:それは正式な命令ですか。

裁:そ うですね。

弁:要望は受け付けませんので、正式に命令す るな らして くだ さい。

裁:先ほ ど署名指印 を確認 された際に、そ ういった形で全体 を見なければならない、全体を確認 しなければな らない とい うことであった とす る と、ここが含まれているのを分かつた上で署名指印 した とい うのを立証 されたいとい うことですが、調書の内容 もある程度見 るとなって くると、やは り、証人の 目に触れていることにもなって くると思われます。そ ういた します と、今、その事項 について証言 を しているところでございますので、必要性がないとい うことであれば、調書 を 目にす ることによつての証人への何 らかの影響等 も考えます と、検察官が争わない と言 ってい るのであれば、できる限 り示 さない方法で質問できるところまで質問を していただ くのが相 当ではないかなというふ うに思います。

弁:もうこの質問はこれで終わ りです。 なので、示 します。続 きはないです。 この話題 はここで終わるので。

裁:検察官が、その必要性がないとい うことで異議 を述べ られてますので、その点については一― 。

弁:だから、正式に判断してください。さっきから言ってるんですけど。示しますと弁護人が言つて、要許可事項ではありませんか ら私は示しに行きますので、止めるなら止 めた らいいで しょう。

裁:それは、同一性 を示す とい うことであ りますが、検察官か らも異議がございま したし、必要性の点から、裁判所としては、それは控えていただくという形でお願いいたします。

弁:だから、要望は受け付けません、お願いは要りませんから。命令するんですか、 しないんですか。訴訟指揮権 を行使して制限するか どうかを聞いているんです。制限 しないのであれば示 します。それを止める根拠 はないです。

裁:先ほ ど、検察官が争わないということですので、必要性がないということと、先ほど来示 されたような形です と、証人への影響等 を考 えて、今回は許さない、それ を しないでいただきたい とい うことで。

弁:そうおつしゃるのであれ ば、その 4行だけ、折りたたんで示しますよ。 4行以外 、白紙で隠して示 します。影響ないです よね。

裁:先ほどその点を含んだ調書 に署名指印をした ということを確認したいということで、それをめくって示されていた ということもございますので、この時点においては、それについては控えていただ くように。それ以外の方法で。
あるということを前提に、あるんだけれども記憶がないと言つている、それはどういうことであるかというのを端的にお聞きになっていただいてもよろしいのではないか と。

弁:弁護人の立証の方法を、裁判所か らとやかく言われる筋合いはあ りません。弁護人は、これを用いて、今述べたような事実関係を証明するために弁護活動をしています。先ほど来 、要望 、要望 おっしゃいますが、要望を聞く気がないと繰り返し述べていますので 、訴訟指揮権を正式に行使するかどうか、早く決めてください、進みません。どうして訴訟指揮権を行使しようとされないんですか 。自信がないんですか。自信があるんだった行使されればいいでしょう。今 もう20分やつてますよ、これ。

裁:それについて 、先ほど来 、弁護人と検察官から双方の御意見がございますので、弁護人がそこまでおっしゃるということについて 、どれぐらい必要性があるかと、今 、考えているところでございます。 私も調書を見て、もちろん 不同意書証ですので 、その辺りの記載の存在をあえて証人に示して確認することが、どの程度の必要性があるのかというところです。

弁:裁判所はいろいろ誤解されていますが 、刑事訴訟法は、本質的権利に関しては、訴訟指揮をもつても制限できないとしています。 強く必要性がなければ示せないなどとい うことは、どこにも書いてありません。 弁護人は、強い必要性があると考えていますが 、仮にそれがどうであれ 、裁判所が制限するかどうかの問題なんです。ですから、必要が ないから制限するならそうおっしゃれ ばいいし、制限しないとおっしゃるのだったら、先ほど来 、私が示すのをどうして事実上阻止しうとされているのか 、理解に苦しみます。法律どおり、忠実に訴訟指揮をしていただきたいと思っているんですが 、いかがですか。

裁:できる限りーー 。

弁:その要望には応じません。

裁:いや、要望 とい うことではな くて、当事者が必要性があるとい うことで訴訟活動 をされたい とい うことであれば、その趣 旨をお聞き して、それ をできる限 り尊重 を して行っていただきたい とい うのが裁判所の意向、意思なので ございます。ただ、その辺 りについて、 どういった必要性があつて、 どういったことで反対意見が出ているのかを聴取 してい るところであ ります。検察官におかれ ま しては、同一性 とい うことであれば――。

検:多分、聞き方で、記憶にないってい うお答 えになっちゃ うと思 うので、否定してるわけではない と、 こっちは理解 してると思っているので。弁護人が端的にお聞きになればいいん じゃないかな と思 うんです けど。

弁:端的に聞けとおっ しゃるんですけど、弁護人 は、供述存在 しか立証 しない と申し上げているんです。検察官のよ うに、なんで こんなことが書いてあるんだ と理 由を聞きたいわけで も何でもないんです。ただ単に供述存在 をきちっとした形で立証す る、弁護人がそれ に最良だ と思 う方法を選択 しているだけであつて、それは、専門家である弁護人の裁量ですか ら、裁判所 は訴訟指揮をもつて制限す るか容認するか、どちらか早く決めてくださいとお願いしてるんです。

検:既に署名指印部分を確認されてるので、そ うい う内容 を確認した上で調書 を作成 して、間違いない とい うことで署名指印 され ているとい うことを、証人自身、認 めてますので。 そ こに書いてある内容 については、今聞かれ ると記憶にないか もしれないけ ど、当時はそ うい うふ うに語 り、実際、そ うい うふうに調書が作 られている とい うこと自体 を全 く否定 してないので、それで足りると理解 してお りますが。

弁:何ペー ジの何行 日に どうい うふ うに書かれてい るか とい うことが漠然 としているのは、きちっ とした立証 とは言わないんです。

検:そこで記憶がない と言つているんだけれ ども、一方で、署名指印 して間違いない とい うことで、内容 を確認 した上で調書の作成 に応 じてるわけですか ら。今は記憶がないけれ ども、そういうことを語り、実際そういう内容の調書が作 られているとい うこと自体は証人は否定 してないので、そ こを端的にお聞きいただけばいいん じゃないかな と思 うんですが。

弁:も う質問は終わっていますが。 あ とは示すだけなんです よ。

裁:弁護人がおつ しゃっているように、何ペー ジの何行日にこういつたことを語り、こういつた内容 の調書を確認 した上で署名したかっていうことまで証人に示して確認をしたいという御趣旨であるならば、おそらく、弁護人が先ほど来おつしゃつている必要性の観点からすると、そのところだけ抜き出したものですと、結局、弁護人 自身がおっ しゃった趣 旨を達成しないようにも思われて。 もし、そのことを示すだけで したら、正確に引用してぶつけていただくだけでもいいわけです。 あと、弁護人がおつ しゃっている趣旨は、証人に聞くことで完全に達成しようとするということからすると、同一性とおつしゃいますけれ ども、証人への影響であ ります とか必要性 との考慮の趣 旨でいきます と、やはり、そこまで、示すことについて検察官か ら異議がありかつ、検察官自身が、 328条の要件存在であれ ば、その点、争わないということでありますので、必要性の点 と影響の点等 を踏まえて、そういつた形で弁護人の趣旨を達成するような形で示す ことについては、制限をさせていただきたい と思います。

弁:では 、 制限されるんですね。

裁:ここまでで 、それを前提として聞いていただければと思います。ちょっと、これ以上―― 。

弁:では、その訴訟指揮の行使について 、異議を申し立てます。(略)

【寸評】
1.戸崎裁判官の無理解は、「あるということを前提に、あるんだけれども記憶がないと言つている、それはどういうことであるかというのを端的にお聞きになっていただいてもよろしいのではないか」という部分に端的に表れている。
供述存在立証は、「あるということ」が立証命題であり、「それはどういうことであるか」を尋問したいわけでは無いからである。自己矛盾供述に対し合理的な弁明ができるかは検察官の立証事項である。
自己矛盾を前提に質問しろと言われても、特に聞くことはないので困る。

2.自己矛盾供述の存在の証明力を高める上で、どのような立証方法を選択するかは、弁護人の裁量に委ねられた事項であり、裁判所は原則的に介入出来ない筈である。
本件では、定番であるが、「自己矛盾供述を検察官が認めているのだから、証人に示す形で立証する必要性まではないじゃないか」と反論されている。
果たして検察官が認めていることは、厳格な証明に耐えうる証拠なのか?という問題を検討する必要があるだろう。この点、「供述欠落」類型では、調書全部を読ますことの不相当性を考慮して、検察の承認に代えることが行われている。そうであれば自己矛盾供述の方も検察の承認に代えることは可能なのかも知れない。
しかし、可能なのかも知れないが、それは所詮、代用品である。
他ならぬ供述人自身に、法廷証言と矛盾する従前供述を確認させ、その存在を認めさせることが最善の方法であり、最善の方法が可能かつ不相当でもない時に、どうして最善の方法を採ることを制限されなければならないのか。代用品で満足しろというような裁判官は願い下げである。また、証明力の高低でも、他ならぬ供述人自身が自己矛盾たる従前供述を確認して「ぐうの音も出ない」という証言態度であるなら、それは事実認定に参画してくるだろう。証明力の高低を占う上でも、「代用品は御免被る」という弁護人の裁量的判断に裁判所が介入することは原則違法である。

3.論点を正しく理解せず、自らの訴訟指揮を毅然として行うこともできない「代用品裁判官」は是か非か、実際の応酬も踏まえて、認識を深めていく必要があろう。

(弁護士 金岡)