本年4月1日付けで、警察庁より、「DNA型鑑定資料の採取等における留意事項について」と題する通達が出されている。
身体拘束されるや、理由も良く分からず口腔内細胞を採取され、それが警察組織内のデータベースにおいて半永久的に残り続けるという問題点については、既に複数の事件で司法の場に持ち込まれているところであるが、それへの対策という意味合いがあるのだろうか、と思い検討してみた。
本通達によれば、「本件や余罪の捜査のため」採取するものとされ、その必要性判断は組織的に行うこととされている(ということは組織的検討経過、結果の分かる捜査書類が開示請求の対象となるということになる)。
さてここで「余罪の捜査のため」とは、既に具体的に余罪を把握している場合に加え、罪種や手口、所持品言動、当該地域の犯罪発生状況等から総合的に余罪を疑う場合を含むとされている点は、要注意である。「念のため調べさせてもらう」みたいなことが想定される。
そして採取手続においては、本件や余罪の捜査のために用いることを十分に説明する、とある。勢い、弁護人は、「このような捜査目的でDNAを出せと言われているのだが」という助言を求められる機会は増えようから、助言の有り様を予め考えておく必要がある。
私見としては、DNAは高度なプライバシー情報であるから、令状を取得出来ない程度の「余罪疑い」に付き合う必要はなく、前記の通り抽象的な疑惑でも要求されるとなれば、初回接見時からきちんと助言しておくことが望ましいと考える。
顕著に不備があるのは保存手続である。
まず、鑑定書や鑑定の経過、結果の分かる「書類」(わざわざ「書類」とされているところが狡い)は必要がなくなれば廃棄することとされている。先ずこの点は、相変わらず現場の判断任せでどうとでも言い訳出来るように設計されており(弁護人が必要だと思う場合に限って廃棄されているという問題が繰り返されよう)、何のための手続準則かと思わされる。
更に問題なのは、逆に、鑑定資料そのものの保存手続や、鑑定結果のデータベースへの登録のことに言及が無いことである。「捜査のために使う」という説明に対し差し出した鑑定資料をデータベースに登録されたら(登録は「鑑定結果」ではあれど「書類」でないから、前記、必要がなくなれば廃棄するという「書類」廃棄の準則には乗らないだろう)、それは詐欺的であろうが、そういった点は全く解決されていない。鑑定資料がいつまでも保存されていれば、事実上、無期限にDNA型鑑定されることになるが、その点にも言及はない。
以上の通り、折角の手続準則ではあるが、
・一般的抽象的な余罪疑惑まで広げていること、
・鑑定書等の「書類」について、現場の一存で廃棄出来る危険があり、公判の確定を待つなどの弁えがないこと
・逆に、鑑定資料の保存について、廃棄の取り決めがないこと。
・データベース登録についても言及がないこと。
から、役に立たないどころか事態を悪化させるだけの陳腐な代物であると言わなければならない。
唯一ましな、採取目的の説明義務についても、説明部分は文書化されないだろう上に、無闇と汎用性の高い定型文言の承諾書に署名させられるだけなのだろうなと想像する。
こういう高度に人権が関係する手続準則は、通達ではなく、弁護士委員の加わる諮問機関の提言を踏まえた、民主的統制の及ぶ法律で制定しなければならないと思うのだが、いつまで、これを繰り返すのだろうか。
(弁護士 金岡)