まず報道を拝借すると、「吉村裁判長は、控訴審で新たに証拠提出された被害者らの無料通信アプリの履歴から「融資に至る経緯について、一審公判での証言と明らかに整合しない」と指摘した。三千万円の支出を記した被害者経営の会社の帳簿は「捏造(ねつぞう)した虚偽内容」と認定し、再度の証人尋問を行うなどして審理をやり直す必要があるとした。」というものである。
名古屋高裁が、有罪判決を破棄差し戻しした、というわけである。
今後も係属する本件について、今、多くを語ることはできないが、弁護人として、この事件は「歴史的」というべき内容を含んでいると考えている。
一つは、供述証拠に依拠した裁判官の事実認定が如何に脆いか、ということである。
前掲記事で「融資に至る経緯」が通信アプリ履歴と明らかに整合しないと報じられているが、まさにそのとおり、(控訴審で通信アプリ履歴と整合しないと判明する)証言を、弁護人が反対尋問結果を踏まえて信用出来ないと主張したにもかかわらず、1審裁判所は「虚偽供述動機が見当たらない」などとしてこれを排斥して、被害者側の主張通りに認定してしまった。裁判所が賢しらげに振り回す理論が全く当てにならないことを、通信アプリ履歴をもって証明出来たという点で、貴重な教訓の一事例を追加した、といえるだろう。
尤も、「歴史的」に問題なのはそちらではなく、くだんの「通信アプリ履歴」(や捏造問題)が何故、控訴審まで登場しなかったかという問題である。
差し支えのない範囲で略述すると、第1審で被害者側の尋問が終わったあと、とある事情から検察庁で被害者側のスマートフォンデータを入手し、解析していたのである。その解析結果は、第1審担当検察官にも伝えられ(争いなし)、即ち第1審担当検察官は、原審における被害者側の証言に反する通信アプリ履歴を知っていたにもかかわらず、原審論告で被害者側の証言が信用出来ると主張し、有罪判決を騙し取ってしまったという経緯がある。
もともと整理手続段階で、弁護人は被害者側の通信内容を開示するよう請求し、検察官は不存在と回答していた(その後、裁判所が被害者側に公務所照会を行い提出を求めたが、被害者側は提出しなかった)。その当時、不存在であったことは間違いないだろうが、尋問終了後といえども入手したなら開示すべきだろう。ましてや、控訴審判決が述べるように第1審の証言内容に明白に反する通信アプリ履歴であったからには、これを開示しない理由はなかった。
弁護人としては、第1審担当検察官の前記論告は虚偽公文書作成罪という職務犯罪に該当すると考えている。そのような職務犯罪により騙取された第1審判決は、それ相応の理由により破棄されるべきだった筈だ。
ここでようやく件名に戻ると、名古屋高判は残念ながら、事実誤認により破棄すべきことが明らかであるとして、その余について、つまり第1審担当検察官の職務犯罪に立ち入ることなく破棄判決をして「しまった」。
なんと気概のないことかと思う。
裁判所が糺さない限り、「奴ら」は反省のそぶりすら見せないだろう。
「歴史を作り損なった名古屋高裁」と慨嘆する所以である。
(弁護士 金岡)