交通事犯の刑事弁護を受任すると、当然、同時並行で進んでいるであろう交通行政処分にも目配りする必要がある。とりわけ事実関係に争いがあるような場合、刑事事件で時間を掛けて証拠収集をやっている間に、不利な事実認定・不利な処分が出ては目も当てられない。
手続の種別が異なるとは言え、前提事実の認定が疎かになって良いはずはないし、交通行政処分にも弁護士を就け、証拠請求をし、事実調べを請求し、意見を提出する等の手続保障がある(道交法104条等)。刑事弁護人が、少なくとも事実上、介入して、刑事事件と同じように進行させることを検討しなければならないのは自明と言えよう。
理屈としては、刑事弁護として弁護準備が尽きるまでは、前記証拠請求等の交通行政処分手続における準備(=手続保障)が尽きていない、という言い方になるだろう。なお、このようにして交通行政処分が事実上、保留状態となるとしても、その間の依頼者の自動車の運転については事案の性質に応じて的確な助言が必要だと思われることを付言する。
さて、交通行政処分の弁護については、例えば高山俊吉弁護士の「入門 交通行政処分への対処法」等を参考にすることになるが、一言で言ってしまえば、殆ど弁護士による手続保障の発想や法治が持ち込まれていない領域と評価せざるを得ない。即ち弁護士の自覚的対応により、手続保障を充実させ誤った処分を防ぐことは、今なお「これからの」課題である。
そこで、とある免許取消請求事件において、一体「罪体」認定にどのような証拠を用いる予定であるのかや、取調べ予定の証拠の閲覧謄写を求める等と(道交法第113条の2により行政手続法第3章の適用が排除されている)、刑事弁護的な発想としては極めて基本的な対応を試みてみたところである。
・・・するとなんと、処分手続を取り止めますという連絡が所轄庁から入った。慎重な事実認定を求めた成果かとは思うが、些か驚かされた。手続を取り止める連絡が、文書ではなく、警察官2名が事務所まで来て口頭で言い渡しておしまい、という手続の有り様にもまた、驚かされた。やはり、法治が及んでいないのだと思わされた。
(弁護士 金岡)