熊本地判2022年11月28日(中辻裕一朗裁判長)である。
事件が嫌疑不十分で不起訴になったことを受けて、被疑者が押収物還付請求を行ったところ、検察官が押収物であるパソコン中の特定の画像を消さないうちは還付できないと対応したというものである(還付請求から拒絶まで、7日もしくは19日が経過)。

争点は、上記還付拒否の判断が国賠法上、違法か、というものであり、被告は、被害者の損害がどうとか、還付の必要性がないなどという理屈を並べたほかには、要旨「権利濫用の可能性があることを念頭に、なお還付の時期や方法を調整する必要があると、留保の対応をしていた検察官に注意義務違反はない」等と反論していた。

裁判所は、権利濫用のような特段の事情がない限り還付義務があるとした上で、権利濫用性を検討してこれを否定し、従って検察官の還付拒否は違法であると判断した。
なお、裁判所は、前記被告の所論に鑑みても、還付の時期、方法等の調整のための留置としては著しく合理性を欠いていたこと、データ消去に同意するまで還付を留保するようなことは許されないこと等を判示している。

実体的な還付義務がいつの時点で生じると観念されるのかは判然としない(判決における不法行為の起算日は拒絶の日とされた、ということはその日までの判断留保は是認されたという理解になるのかも知れないが、判決文を読む限り、拒絶日までの具体的検討状況は認定されておらず、おそらくは拒絶が不法行為になるという請求原因の立て方のためにこのような判示になったとみるべきであり、深読みは出来ないと思われる)が、還付決定をするかどうかに場合により数日程度を要することは有り得るかも知れない。しかし、これを越えてくるとなると、この判決が上記の反論を一蹴したように、事実上の還付拒絶と言うべき違法状態に陥るだろう。
押収物還付請求の実務においては、還付を請求してもうんともすんとも対応がなく、仕方がなく準抗告しても一月単位で放置されることもままあることを思えば、7日でも著しく合理性を欠くと判断した本裁判例は「厳しい方」になるのかもしれない。勿論、本来的には、判断に7日も要するというのは原則的に不合理、とならなければならないだろうから、この判決に満足していてはならないだろう。そもそも論としていえば、嫌疑不十分としたその瞬間に、領置の必要性が無くなるのは当然であるから、検察官が自ら還付を申し出てくるべき筋合いである。還付請求が来なければ放置、来ても(留置の必要性が消滅しているのに)検討に徒に時間を費やすという悪弊をこそ、打破すべきであろう。

本判決は、菅一雄弁護士に御提供頂いた。不当な還付拒否に国賠を以て臨む姿勢は、刑事弁護人として真っ当である。

(弁護士 金岡)