本欄2019年9月9日において、証言予定開示義務の水準を示した名古屋高判を紹介した。その判旨は、本欄では既にお馴染みであろうし、私の研修でも必ず紹介する、極めて有用なものである。
ところが、未だ公刊物に登載されていないようで、本欄2023年3月8日「見事な無理解」に御登場頂いた検察官から判決を寄越せとの要望があった。
公刊物への登載は担当弁護士の御判断であり(持ち込めば大歓迎されるだろうが)、私がどうこうすべきものではないが、折角なので引用用に、判決を正確に掲げておくことは現時点で意味があるように思う。
【判決3~4頁】
刑訴法316条の14第1項2号が証言予定記載書面を相手方である弁護人に開示しなければならないとしているのは、弁護人の防御権を保障するためである。原裁判所は、公判前整理手続の中でDの証言予定記載書面が開示されていないという原審弁護人の主張を前提にしつつも、証人Dの立証趣旨からDがT事件について尋問されることは十分に想定されるとして、主尋問の範囲を超えている旨の原審弁護人の異議を棄却しているが、T事件に関する事実がDの立証趣旨の範囲に含まれるといえるからといって、当該事実に関してDが具体的にどのような証言を予定しているかまでを原審弁護人が当然に知り得るわけではない。両者は別問題である。原審裁判所としては、原審弁護人の異議理由についての事実確認を踏まえた上で、T事件に関する証人Dへの尋問をどうするかについて当事者と協議するなどして、原審弁護人への不意打ちを回避するための策を講ずべきであったのに、原審弁護人の主張を認識しつつ異議を棄却したことは、弁護人の防御権を侵害するものに他ならない。
(※)「D」は判決文どおりだが、「T」は事件名を略記した。
(弁護士 金岡)