まず、名古屋高裁「民事」第4部の判決文(名古屋高判2023年4月13日、筒井建夫裁判長)を引用しよう。
「刑訴法316条の14第1項2号が証言予定記載書面を弁護人に開示しなければならないとしている趣旨は、弁護人の防御権を保障することにあると解される。弁護人にとっては、具体的にどのような証言が予定されているかが開示されていなければ、反対尋問の準備が困難となる」(5頁下から8行目以下)。
「そうすると・・担当裁判所が(主尋問の範囲を超えるとして弁護人が申し立てた)異議を棄却して、担当検察官に、(証言予定記載書面に記載のない)尋問を続行させたことは、刑訴法316条の14第1項2号に反すると言わざるを得ない」(5頁5行目以下)

本欄でお馴染みの、名古屋高判2019年6月24日(名古屋高裁「刑事」第1部)によく似ている(そちらの正確な引用は本欄本年3月10日を参照のこと)。

実は、刑事事件の側で証言予定開示義務違反の尋問を強行された被害者である弁護人らが、その後、国賠訴訟を提起し、上記のような控訴審判決を受けたということである。
刑事民事双方の高裁判例で、刑訴法316条の14第1項2号の趣旨が明確に説明され、且つ、証言予定開示義務違反が直接に証拠制限(尋問制限)を帰結することが明示された意義は少なくないだろう。

なお、国家賠償請求の結論は棄却である。
尋問を続行させた裁判官の国賠法上の責任についての判断部分は、要旨、「刑事事件の側で当該尋問部分を用いなくても有罪認定出来るとしているので、判決に影響を及ぼさない法令違反であった」「違法不当な目的をもって異議を棄却したなど、その権限の趣旨に明らかに背いて権限を行使したとは認められない」として、国賠法上の違法を否定した。
これもお馴染みの話だが、どうして裁判官の不法行為責任だけ、「違法不当な目的」といった要件が加重されるのか、疑問である。また、判決に影響を及ぼさないなら、否定されるのは違法性ではなく損害の方ではないだろうか。
無闇と国家賠償の壁を高くするために理論が混迷していることは、今後、速やかに解消されるべき課題に相違ない。

ともかく、重要なことは、証言予定開示制度の趣旨を正しく理解し、運用することである。それに尽きる。

(弁護士 金岡)