勾留からの釈放を目指す場合に、準抗告か勾留取消か、という議論は、既に論じ尽くされている観はあるが、それでも屡々、ML等で再燃する。
要するに、「今、勾留すべき理由が失われているなら」準抗告だろうと勾留取消だろうと憲法上の責務として裁判所が釈放を命じなければならないことは自明であり(勾留を職権で取り消すことは常に可能だ)、準抗告であれ勾留取消であれ、そういう指摘を受けたのなら裁判形式の選択を理由に釈放を拒むことは違憲違法である、というのが簡明な結論であろう(かれこれ5年以上も前、本欄2018年4月6日付けで似たようなことを書いたことは良く覚えている)。

ということで、裁判形式の選択など実際のところ、どうでもいいのだが、求意見手続の要否や、決定理由の充実度の観点から、わざわざ勾留取消を選択する理由もなく、前記の通り「今、勾留すべき理由が失われているなら」事後審だからといって裁量追認論で逃げようもないとすれば尚更のことである、と考えて、そう発言もしている。

ところで、愛弁会報2023年3月(通巻745号)に掲載されていた一審強化刑事部会の協議結果要旨によれば、「なぜ勾留取消却下決定に(具体的な)理由が記載されていないのか」「よりよい裁判のためには記載すべきでは無いのか」という問題意識から、勾留取消却下理由に「なお勾留の理由及び必要がある」以上の具体的な内容が記載された裁判例の有無、記載すべきとの問題意識に対する裁判所の姿勢等を質疑した結果が掲載されていた。

それによれば、具体的理由を示した実例については、2022年1月1日~10月31日までで、3件ある、とのこと。また、裁判所側で「なお勾留の理由及び必要がある」との共通書式を用意しているわけではなく、迅速性や(捜査段階であれば)密航性を踏まえて各裁判が記載の当否を判断している、とのことであった。
残念ながら勾留取消請求件数が書かれていないので、「3件」が絶対的に少ないとまで断じられるわけでは無いが、まあ殆ど無い部類だと言って差し支えあるまい(愛知刑事弁護塾で編んだ保釈事例90本の中で、保釈許可理由を詳細に表した当初決定を収録し、その後も時に事例報告として同様のものが上がってくるが、つまるところ、ごく稀に、という程度に止まるだろう)。

殆どの事案で、「釈放しないことを迅速に伝えるために具体的理由を書く余裕が無かった」等と言うことは悪い冗談の類いである。また、殆どの事案で、捜査の密航性故に具体的理由を記載することが相当ではない等と評価されているわけでもあるまい。
結局の所、横並び体質、というより、書くべきとの問題意識すら持っていない裁判官が大半だったのだろうと思われる。
そういう意味で、「書かないで良い理由はないはず」「実例もある」ということを知らしめた今回の一審強化刑事部会の協議結果には、価値があると思う。

(弁護士 金岡)