報道されている案件で、少々、時期を逸しているが、取り上げてみたい。

刑事施設において着色レンズ眼鏡の使用不許可の違法性が争われた事案である。大阪地判2023年4月20日。

大阪拘置所では、日光透過率75%に満たない着色レンズ眼鏡は、特別の理由がある場合に限り、個別的な許可の検討対象となるという枠組みであり、大阪刑務所では、原則無色透明である必要があるが、それしかなく、日光透過率75%以上であり、使用を認めないことによる著しい支障がある場合に限り、個別的な許可の検討対象となるという枠組みの中で、(1)75%に満たない眼鏡Aの使用を拘置所が不許可⇒(2)弁護人が90%の眼鏡Bを購入して差入れ⇒(3)大阪拘置所は許可⇒(4)刑務所では眼鏡Bも不許可、という流れを辿った。

争われたのは、(主として)大阪拘置所における眼鏡Aの日常使用上の不許可、接見時の使用不許可、大阪刑務所における眼鏡Bの使用不許可の、それぞれの違法性である。

裁判所は、視力矯正を憲法13条の人権に準え(「同条に基づく基本的人権と同等」)、その性質から制限の余地を厳しく解した上で、日常使用制限自体についても、具体的事情下における放置出来ない程度の障害が生じる相当程度の蓋然性を要求し、接見時使用制限については更に、具体的な支障が生じる高度の蓋然性を要求して、検討を進めた。
その結果、拘置所における眼鏡Aの日常使用自体が、具体的事情下における放置出来ない程度の障害が生じる相当程度の蓋然性において疑問であるとしつつ、ぎりぎりのところで、一見して着色レンズであることが明らかである等から、裁量判断が違法とまではいえないとした。
他方、拘置所における眼鏡Aの接見時使用制限については、上記高度の蓋然性はないとした上で、通常尽くすべき注意義務違反を認めて国賠請求を認容した。

かたや刑務所の眼鏡B問題については、大阪拘置所でも使用が許されていたものであるし、刑務所の懸念する、自己顕示や威圧は抽象的に過ぎるとして、日常使用制限自体を違法と判断して国賠請求を認容した。

判決によれば、御本人の裸眼視力は0.01~0.03程度である。接見時の挿話としてアクリル板に記録を押しつけてもまともに読めなかったというのもあり(かたや刑務所側は裸眼でも生活に支障はなかったとの挿話をいくつも繰り出しているが、裁判所は常識に照らして取り合っていない・・こういう事案で組織的に虚偽報告が頻出することを含め常識の範疇であろう)、よくもまあ眼鏡を取り上げて平気だな、と思わされる事案であるが、上記で紹介したように、裁判所が人権としての位置付けから出発して、接見時には更に制限の余地を厳しく解する等の、丁寧な検討をしていることも光るように感じられた。

あと、眼鏡Bは、大阪弁護士会の刑事弁護援助金から(国賠で代金相当額が認容されたら返還されたい旨の条件付きで)購入原資が援助されている、とのことであり、大阪弁護士会の心意気と、弁護人の工夫が垣間見られたことも指摘しておきたい。
思わず例の「処置請求問題」を思い出したが、接見にすら支障を来す強度の人権侵害に対し、弁護士会が毅然と会員を支援する、という事象が、裁判所に少しは響いたのでは無かろうか。

(弁護士 金岡)