本欄ではお馴染みの、保釈手続における検察官意見を、ファクス送付して貰えるか問題である。今回、県外の裁判所の案件で、無事、ファクス送付を得たので紹介したい。
といっても、理屈めいたところや、必要性相当性は過去の記事に委ねればよい。
本欄では、「このように裁判所に申し出てみた」全文を公開しておく。
「ああ、あの書式ね」みたいになると詰まらないので、参考になる範囲で適宜、取り入れ、改良して頂ければ幸いである。
なお、今回このようにファクス送付を得て、役に立ったか?と言われると、正しく役に立ったと言わなければならない。ひどいところを一例、挙げると、検察官は、「被告人は、信用できるA供述の話題甲について、これに反する供述をしているから、保釈すると認否をひっくり返して争い出す虞がある」と主張した(この言い分自体、相当酷い)。しかし、このA供述は、話題甲について、調書が2通あり、2通目には「前は罪をなすりつけるために、話題甲について、嘘をつきました」と、被告人の認識に一致する内容が記載されているのである。第1回前の保釈裁判官が一件記録を見るのか見ないのかは分からないが、もし見ないと、こうやって、「都合の良い1通目」だけで構成された検察官の嘘に、裁判所はものの見事にひっかかるだろう。
それをさせないためには、対審構造なのである。
(弁護士 金岡)
(上申の趣旨)
検察官意見をファクス送付頂きたい。
(上申の理由)
1.現代の保釈裁判は、当事者間に於いて認識に相違がある場合は特に、対審構造的に審理が行われており、即ち、一方当事者の反論、他方当事者の再反論という形で、噛み合わせた議論が意識的に行われている。
どうしても、人間の営みである以上、事実誤認や、過小過大な事実の歪曲は不可避に有り得るのであり、双方当事者に、相手方当事者の意見への反論機会を付与することが重要である(例えば当弁護人の経験では、被告人が暴力団組員であるという事実に反する検察官の意見が出されたことに対し、早急に調査を行い、被告人の使用していたレンタカーが前後して暴力団組員に貸し出されていたことを捜査機関において誤認混同しただけであったことを突き止め、無事に保釈に結実させたことがある)。
2.弁護人は、以上の観点から、保釈裁判における検察官意見の謄写を申請しているが、現実問題として、X地方裁判所扱いの謄写物を受領するには1~2日を要するのであり、これを待って反論の要否を検討していたのでは、優に週を跨ぎ、適切な反論機会の保障を受けるために、迅速な保釈裁判を犠牲にすることを強いられることになり、ひいては身体拘束の遷延(憲法上、身体拘束は正当な理由がなければ認められないから、これは違憲状態を意味する)を強いられることに繋がる。
裁判所は、適正手続保障と、正当な理由がない限り身体拘束は行い得ないことの、双方の憲法上の要請を何れも満たすよう、工夫しなければならない。
3.ところで、裁判所は検察官に求意見を行うに際し、ファクスを利用していることが知られている(少なくとも名古屋地裁ではそうである)。弁護人の保釈請求書等一件記録を検察庁にファクス送付できるなら、検察官意見を弁護人にファクス送付することができないはずは無い。
事実、名古屋地裁に於いては、事情に応じて(弁護人側も、理由もなくファクス送付を求めるようなことはしない)、検察官意見を含む身柄拘束裁判にかかる種々の文書、資料を、弁護人にファクス送付している。
そうすると、御庁に於いても同様に、検察官意見を弁護人にファクス送付することにより、適正手続保障と、正当な理由がない限り身体拘束は行い得ないことの、双方の憲法上の要請を何れも満たすことが出来る。裁判関連文書のファクス送付は、民事刑事を問わず常態的に行われており、保釈裁判に於いても前記の通り、その例外では無いから、このように処理することに特に差し支えも無い。
4.なお、ファクス送付頂ければ、弁護人から反論の要否を検討し、必要に応じた反論を行うまで、通常2時間程度である。
以上