前回記事と同じ事案であるが、今度は証言予定内容記載書面の話題である。
この事案では、序盤の重要証人が双方申請となると見込まれたため、弁護人から早々に証人請求すると共に、証言予定内容記載書面を検察官に開示していた。
このことは無論、4号除外事由の有無程度に影響を与える。
現に保釈許可理由では「弁護人は、Aの証人尋問を請求し、その証言予定内容を検察官に開示していること・・・実効的な罪証隠滅を図ることができるかについてはいささか疑問が残る」として、考慮要素の一つとして明示的に取り上げられていた(なお※1参照)。
これに対する検察官の抗告理由が実に嗤えるものであった。
曰く「証言予定記載書面は、予定される一応の証言の内容について、その概要を示すものに過ぎず、その内容に当然肉付けした証言がなされるのが通例であり、証言予定記載書面に記載されている事項しか証言がなされないということが確定したとの事実認識を前提にしているのであれば、それは事実誤認というほかない」(宮城敬裕検察官)というのである。
証言予定内容開示の在り方は本欄では何度も取り上げているが、反対尋問側に、主尋問の内容を具体的に知る機会を与える制度である。
「一応の」とか「概要」とか「肉付け」等と、散々な言いようであるが、いかに検察庁が証言予定開示を軽んじているかが、良く分かる。
ものの道理を弁えた裁判官であれば、「はいはい検察官はそういう卑怯なことをするのね」と冷笑して読み飛ばすところでは無いだろうか。天に唾するとはこのことである。
序でに、近時の関連する話題を紹介しておきたい。
証言予定開示で大揉めした、とある事案で、検察官は頑なに、「証言予定内容を具体的に開示した」とは言おうとせず、「検察官が公判期日で獲得を目指しているA証人の供述の要旨は、既に弁護人に開示されているところに尽きる」等という意味の分からない応答をしていた(中林睦夫検察官)。
「証人が予定している」証言と、「検察官が獲得を目指している」証言とは、全く、同じでは無い。検察官が獲得したい証言なるものを開示されても意味は無い。裁判長は「獲得したい証言が開示された方がより踏み込んでいるのでは」という、これまた意味の分からないことを仰っていたが、少しでも反対尋問を学べばよいのにと思う。
果たして蓋を開けると、A証人は、重要な論点Xについて、検察官の開示した証言予定内容を全否定した。弁護人から、「あなたはXと証言する予定になっているが?」と水を向けても、ばっさりである。「検察官の証人テストではXと認めなかったのか?」と尋ねても全否定。
果たして証人が嘘を重ねているのか、検察官が、否認されると知りつつ獲得を目指している夢物語を開示したのか。現時点ではどちらが真実かは分からないが(どちらも大いにありそうなので、どちらと決めづらい)・・この体たらくが、検察側の種々の機能不全に負うことは間違いあるまい。密室での事情聴取、密室での証人テスト、などという不正の温床からは、いい加減、決別しなければならない。
(弁護士 金岡)
(※1)
なお、保釈事件の抗告審決定は、上記証言予定が開示済みである点には得に言及すること無く、「原決定の認定判断は、その裁量判断の基礎事情の認定評価に関しては疑問な点がある・・原決定がいうほど罪証隠滅の実効性が低いとは断じ難い。しかしながら、今後の証拠調べの大まかな道筋が一応立てられた状況にあることを踏まえると、罪証隠滅のおそれは一定程度減弱したものといえる」と説示している(名古屋高裁刑事第1部、杉山裁判長ら)。
結論だけ言えば、原決定の判断理由の方に説得力を覚えるが、異論があるとしても決定理由を明示したことで不承不承、追認されたとすれば、何よりであった。