3月25日に掲載した「・・・臭い物に蓋」で触れた行政訴訟の勝訴判決が確定した。行政訴訟の請求認容率は8%ちょっとと言われている(税務訴訟、在留関係訴訟、年金関係、生活保護関係等々で、相当に差があるのではないかと思うが、そこは統計資料がない)ので、率直に安堵した。

正式な事件名は「遺族基礎年金不支給決定取消請求事件」。単純化すれば、無理からぬ経緯により別居後、年金加入者(配偶者であり父である)が死亡した場合に、別居状態の遺族が同加入者によって生計を維持していたと言えるか、という争点であったが、平成23年10月に不支給処分、その後、社労士が援助して不服審査請求を行い、平成25年1月に行政手続としては終了。平成25年6月(提訴期限まであと一月)に弁護士会開設の法律相談所に来所されて私が応対、提訴期限当日に提訴した、という流れである(古巣、名古屋南部法律事務所の岡村晴美弁護士に共同受任して頂いた。互いの専門性を足し併せた事件処理ができるのは複数受任の醍醐味である。)。

裁判所と被告(国)への批判は、一応若干なりと前掲記事で述べたので、その他の問題点を書いておきたい。

一つ目。近時、隣接士業問題が喧しく、社労士も一隣接士業として名前が挙がっているところであるが、この事案について言えば、行政段階で弁護士が介入し、類似裁判例を示すなどして理論武装し、それに見合った証拠収集を尽くしていれば、結論が違ったのではないか・・と思えなくもないところがある。なにしろ、不服審査請求に関与した参与が皆一様に、不支給という結論が常識的におかしい、と指摘する中、処分庁の担当者が「法律はこうなっている」で押し通してしまった経過が議事録に克明に残されているし、訴訟になってから原告側で提出した証拠が、相当程度、判決中で採用され、有効打を与えたと思われるからである。事情のある別居事案では、東京高判平成19年5月31日等、柔軟な解釈を許す裁判例が複数あり、本件もそれに連なるものであると言えるが、本件でどこまで司法の先例を踏まえた審査が尽くされたのかは疑わしいところがある。もっとも、年金の行政手続段階など、ほとんど弁護士が関わっていない分野と思われ、当事者の問題と言うよりは制度が上手く機能していない問題であろう。

二つ目。ともかくも、依頼者は、最終の行政判断から5か月後、法律相談に来られた。行政訴訟、しかも年金問題となると、(労災系統の事件を除くと)弁護士といえども未経験どころか見通しも立てられない者が大多数を占めると言って過言ではないだろう。私は幸いにも、敗訴したものであるが同じ分野に属する案件を担当したことがあり(名古屋地判平成18年11月16日、裁判所HP掲載)、30分の法律相談でもそこそこ依頼者の話についていけたが、もし未経験の分野だと、30分の相談や、残り一月の提訴期限内にどこまでのことができただろうか。世間は益々、弁護士に専門性を求め、専門を標榜する宣伝は枚挙に暇がないが、業界全体としては、需要に見合った専門性を提供する体勢は到底、構築し得ていないのだろう。専門分野を認定する制度があれば良いと思うが、現実の制度として立ちゆきそうなものは俄に思いつかない。しかし相談者側に専門家を捜し当てろと言うのは無責任というか無理も甚だしい。自分の中で暫定的な結論さえ見出しがたい困難な問題であるだけに、今はこの程度しか述べ得ない。

(金岡)