愛知の古田宜行弁護士から御提供頂いた、余り例を見ない事案である。

愛知県公安委員会に対し、警察法79条1項に基づく苦情申出を行ったところ、単なる要望と取り扱われて同条3項に基づく処理結果の通知が受けられず、繰り返し進捗を問い合わせるも同様にあしらわれ、遂に国家公安委員会に対応を求めたところ、国家公安委員会の指示により苦情申出の再提出を行うことになり、最終的に同条3項に基づく通知を受けることが出来たという経過である。
原告側の主張は、当初の苦情申出を誠実に処理し、結果を通知すべき義務を怠ったことが国賠法上、違法であるというものであり、被告は、(1)実質的に要望と処理したことに裁量逸脱はないと主張した上で、(2)結果的に処理した、(3)損害はゼロ若しくは著しく軽微、と主張した。

裁判所は、(1)について、「形式的な不備はなかったのであるから、愛知県公安委員会は、法令又は条例の規定に基づき本件申出書に係る申出について誠実に処理し、処理の結果を文書により原告に通知しなければならなかった」「本件全証拠を検討しても、愛知県公安委員会の上記判断(註:法79条1項に基づく処理をしなかった判断)に相応の合理性があったことを基礎づける事情等はうかがわれない」「(被告の主張は)上記認定に反するものであり、採用することができない」として、国賠法上の違法をあっさりと認めた(名古屋地裁2023年10月2日判決、竹内幸伸裁判官)。

判決文を読む限り、愛知県側は、警察法79条1項に基づく処理を行わなかった理由をまともに説明できなかったと思われる。つまるところ、県警の組織的体質として、警察法79条1項の苦情申出制度を機能不全にしていた、言い訳できない事態だったのだろう。
行政機関が、法的根拠を有する申出に対し、「事実上、受理しない」とか、「事実上の要望として扱う」現象は、珍しいものではない(本欄でもかつて、2022年2月14日付けで告発の不受理問題を取り上げたことがある)。面倒な、あるいは耳の痛い申出ほど、このようにあしらわれる事態になりやすく、それに対し敢然と法律に則った是正を求めた本訴原告の英断(気力、根気)には賛辞を送りたい。

なお、認容額は僅か1万円(と弁護士費用相当損害金1000円)。
法律上の権利行使を違法にも妨げられ、弁護士を選任して国賠を余儀なくされるほどの痛みを受けた原告に対する報いとして、果たして十分と言えるだろうか(勿論1000円では弁護士に依頼できない)。僅か1万円で済むなら、愛知県警の組織的体質も改まるまい。
裁判所には更なる意識改革が求められる。

参考までに、「告発状の不受理については違法」で検索するとすぐに見つかるだろう、とある行政書士事務所のウェブサイトには、神戸地判2019年11月1日というものが全文掲載されており、それによると裁判所は、「告訴権者に固有の利益を認める見解が成り立ち得る余地もあるが、告発についてはこのような制度は存在しない。以上を踏まえると、告発権者には告発を受理されること自体に固有の利益があると評価することはできず、これが侵害されたことによる国賠法上の違法性を認めることはできない」と判示している。
古田弁護士の事例に対しては、このような神戸地判も念頭に、果たして警察法79条1項の苦情申出を受理されることの法的権利性や如何、という局面でどのような判断がされるか、密かに注目していたのであるが、79条3項「誠実に処理し、処理の結果を文書により申出者に通知しなければならない。」の文言から素直に法的権利性を引き出したことは、今後、参考にされて良いと思われる。

(弁護士 金岡)