これは、正味48時間以上もの人身の自由が守られた、心温まる物語である。

金曜17時20分、県外他庁から名古屋高裁に保釈許可決定に対する検察官抗告の記録が届く。17時50分、早くも名古屋高裁は「月曜送り」を宣言。
「今日か、少なくとも土曜にやれよ」と反発する弁護人(私)。
月曜送りの理由説明を求めるも30分以上、連絡が無いので、抗議書をファクスして帰路に就いたところ、ほぼ1時間後の18時56分(「仕事をさぼる名古屋高裁」というコラム記事が書き上がった頃)、「土曜に判断します」と態度が変わった。

お察しの通り、金曜17時20分に到着した抗告審記録は業者の業務時間外なので謄写が出来ない。1時間近くかけて裁判所に引き返し(※)、20時、抗告審記録をデジカメで撮影。土曜午前に意見書を提出し、土曜夕方、許可を維持する判断を得た(名古屋高裁刑事第1部)。

金曜17時20分から僅か30分で月曜送りを決めた名古屋高裁は、無論、批判されるべきである。いつもいうことだが、慎重にも慎重を期して、どうしても身体拘束はやむを得ない、ということで身体拘束したのであれば、その権限を行使する反面の責務として、事情が変われば機敏に釈放対応をする義務もあるだろう。土日昼夜を問わず逮捕状を出すのだから、土日昼夜を問わず保釈裁判をやるのが筋だ。
真夜中まではともかく、金曜夜や土曜日中は、少なくとも地裁では身柄裁判が普通に行われている。高裁だけがその限りで無いというのでは筋が通らない。抗議書は「遅くとも土曜日に決定を行えるよう、努力されたい。熟慮することもなく、月曜送りを決め込むことは、それ自体が人権侵害である。」と結んだ。
抗議の成果が上がったのかどうか、それは分からないけれども、とにかく月曜送りが朝令暮改(どころかものの1時間で)撤回され、土曜夕方に許可を維持する判断がされたことは何よりであった。

裏話として言えば、許可は維持だが保釈金が増額されたので(原審の金額は私の相場観から見ても安すぎたというのはある)、大急ぎで資金調達して、土曜中に時間外納付を敢行することになった。裁判所が土曜出勤して判断しているのだから、弁護人が休みたいというのは通らない。金曜は帰路から引き返し、土曜は休日出勤。人身の自由を守ることは綺麗事では無い。県外他庁の裁判所職員にも休日出勤が飛び火したが(このあたり、機敏にやらないと時間外納付の根回しに失敗する羽目になるから、慣れが必要である)、ともかく土曜日19時、無事に保釈金を納付し、依頼者は釈放された。

もし、名古屋高裁が考え方を変えず月曜送りのままであれば、判断が月曜夕方、下手をすると増額納付は火曜日になっていただろう。土曜夜と火曜とでは大違いである。かくして48時間以上、人身の自由が守られたわけである。

(※)金曜夜に1時間かけて引き返さなくても、抗告審記録(検察官申立書とか原審裁判体意見書)をファクス送付してくれれば、今時はウェブ経由で閲覧可能である。謄写業者時間外に記録が到着するような事案であり、なんとしてもファクスして欲しいところであったが、高裁は頑として拒否。
写真撮影のためだけに1時間かけて裁判所に向かうのは幾ら何でも不合理であろう。実に馬鹿げている。

(弁護士 金岡)