交通事件の刑事弁護を受任すると、交通反則事件対応も検討しなければならない。
十数年来、刑事事件側で争いになっている場合は、交通反則事件の処理は事実上、停止されるのが当然だと認識し、現にそうしてきた。
交通反則事件側からの言い分としては、免許不適合者から免許を早期に取り上げる必要性が言われるのかも知れないが、強度の不利益処分であり、証拠の閲覧権、発問権、証拠提出権等が保障されている(行手法18条以下)以上は、刑事事件と同等の防御水準が保障されなければならないことから必然的に刑事事件を先行させるべきであるし、そうしないと刑事事件との合一確定が損なわれ、昨年話題となった福岡の事件(刑事事件で無罪が確定したのに運転免許が回復されなかったため行政訴訟に発展した、福岡高判2023年9月26日)のような事態に至りかねない。
このようにして刑事事件が先行すると、刑事事件決着後の交通反則事件の処理は刑事事件の判決内容と同様になるだろうと見込まれ、それよりなにより刑事事件側で防御し尽くした以上は交通反則事件において新規に何かできることも思い当たらず、結局、本格的に交通反則事件を経験すると言うこともないまま、現在に至るのが実相である。
ところでこの程、刑事事件(無過失を主張)の捜査が1年にわたり停滞している中で、交通反則事件が動き始めたというものがある。
無過失を主張する刑事事件が不起訴で終わる可能性がある中で、交通反則事件側が動き出すのは迷惑な話であるが、必ず起訴されるというわけではない以上、刑事事件が決着するのを待てというだけの事情もなく、交通反則事件を受けて立たざるを得ない情勢である。
そこで、行手法18条1項に基づく証拠閲覧を行ったのであるが、これがいわば、少年事件における法律記録のようなもので、送致目録付きで一件記録がどさっと綴られているものであった(但し感覚的に、「少なすぎる」という気はした)。複写を求めると翌々日には県警から複写記録が持参され(というよりも閲覧用に複写されたものをそのまま頂いた感じ)、なかなかに迅速である。
これまで、刑事事件を理由に交通反則事件の処理を止めてきたが、もし、刑事事件と異なり一件記録の閲覧が制度的に保障されているとなれば、捜査段階は勿論、公判段階においても、行手法18条1項に基づく記録閲覧を行う独自の利益があるということになるように思われ、興味深い経験であった。
(弁護士 金岡)