さるMLで話題の件である。
裁判員裁判では無い、且つ身体拘束中の事件で、被告人を弁護人の隣に着席させることは出来るかという趣旨の投稿に対し、私からは、「尋問が続くような事案では複数の経験がある」ということを報告したのだが、他の投稿者から「うちの地裁では全件そうなっています」という驚くべき報告がなされた。
仮にK地裁としておくが(高裁所在地では無い)、K地裁では、被告人用のベンチ椅子すらなく、弁護人席の並びに座席が用意されているのみ、という。
名古屋地裁では、弁護人席の前に被告人用のベンチがあるので、全く異なる風景が広がっていることになる。
驚くべきことである。
思い起こせば、被告人を弁護人の隣に着席させることには、その当事者たる地位に基づくという観点と、より実効的に弁護人の助言を受けるべき防御の観点とが主に強調されており、裁判員裁判を契機に裁判員裁判では身体拘束中の事件であっても弁護人の隣に着席できるようになったのは、前者の観点(但し「裁判員が先入感を持たないように」という裁判員目線の変則的な形で考慮され、被告人のためでは無い~被告人のためであるなら、裁判員裁判限定の議論に止まったはずは無い~)が強調されたからであろう。
歪んだ当事者的地位の保障の議論が進められた結果、非対象事件は取り残され、「非対象事件は従前のまま」という膠着状態に陥った。それへの突破口として、後者の観点、つまり防御の観点から隣で無ければならないという視点が(正しく私の実践例におけるように)強調され、その結果、尋問が続くような事案ではかろうじて認められるが、数十分で片付けられていくような事案では取り合われない、という状況に陥っているのだろうと思われる。
しかし、現状追認は同罪である。K地裁のように、被告人用のベンチ椅子すらなく弁護人席の隣が当然、という裁判所があるのであれば(本欄を掲載するに当たり、わざわざ確認してきて貰ったので、間違いの無いことである)、拘置所の戒護権なるものも最早、問題ではないことの証である。全事件で隣に座らせること、まったなしである。
(弁護士 金岡)