これはもう、おそらく非常に稀な案件であり、取り立てて先例的価値があるというわけでもないが、珍しいので紹介しておこうというものである。

事案は、債権者が、債務名義に基づき、債務者の給与債権にかかる情報提供命令を申し立てたものである。詳細には言及しないが、債権者と債務者とは、裁判所の仲介により債務者が自主的に給与の半額(特定の種別の債務名義についての法律上の差押え上限)を支払うこと、その支払いが続く限り債権者は当該債権に基づく強制執行を行わないことが合意されていた。

裁判所の事実認定としては、上記合意は債権者が債務者の勤務先を知ることにより懸念される重大なトラブルを防止する趣旨であること、債務者が支払を続けているのだから債権者に情報提供命令を求める利益は無いこと、結論において濫用的申立と評価すべき、というものである。結果的に、情報提供命令申立は却下された(名古屋高裁民事第2部、2024年6月20日付け決定)。

ところで本件では、債務者が、債権者から別の債務名義で年金口座を差し押さえられたことから生活が苦しくなり(給与の半額を支払うと生活が成り立たなくなる)、上記合意にかかる支払を一時的に中断した、という事情がある。
裁判所はこの点について、「・・年金の振込口座であり、年金の振込日当日にその全額が差し押さえられているところ、これは法律上差押えが禁止されている年金それ自体に対する差押えと同視すべきものであって、・・送金が停止されたことについては、本件合意の解除原因に当たらない」と説示した。
この点について、本欄2018年11月23日「税務署による脱法的給与口座の差押え」で紹介した前橋地判と方向性を同じくするものであり、適切なものといえるが、それにしても、年金支給日を指定した差押えを許した裁判所に責任はないのだろうか?とも思う。特定の入金を当て込んで日付指定の差押えを試みることは債権回収側にとって重要な手法だが、それが「偶数月の15日」の場合、裁判所も、年金の脱法的差押えに加担することになることくらい、勘付きそうなものだからだ。

(弁護士 金岡)