たまには前向きな裁判例を紹介したいということで、報道されている札幌高判2024年6月28日を取り上げる。

事案は、在宅被疑者を警察車両内で任意採尿の説得中の警察官らが、前から相談していた弁護人からの同被疑者に対する着信電話に出ないよう、数度に亘り繰り返し求めたことが国賠法上、違法かというものである。

地裁判決(札幌地判2023年10月25日)は、弁護人依頼権を実効あらしめるため在宅被疑者にも接見交通権に準じた接見の利益が認められるとした上で、電話連絡はこれを実現する重要な手段であるから、被疑者が弁護人に電話連絡することも弁護人依頼権の一内容として法律上保護される、弁護人側からも固有の利益として保護される、と解釈し、特段の事情がない限り妨げることは許されないとした。
その上で、本件任意同行における警察官らの2時間に及ぶ執拗な追尾状況、最終的に警察車両に乗せての説得中であったこと、被疑者が警察車両を自ら降りることは事実上困難であったこと等から、数度に亘り弁護人の着信に応じないよう説得したことは、任意の協力要請ではなく連絡制限と評価すべきと判示した。
まあ分かりやすい判示である。
なお、慰謝料は例の如く請求金額の1割である。

高裁判決(札幌高判2024年6月28日)も、地裁判決を概ね踏襲した。
その判示によれば、警察官は「弁護人等への相談を不必要に制約しようとするような言動を控えるべき職務上の注意義務を負う」「弁護人等に相談してその助言を受ける機会が十分尊重されるべき場面で・・前記職務上の注意義務に反した」とされている。

健全な常識を働かせれば、警察車両の隅に押し込まれて、降り口を警察官が身体で以て封鎖してしまう状況下、弁護人からの電話に出るな出るなと要求することがどういう事態を意味しているかは、分かりそうなものだが、遺憾ながらこのような手口は依然として横行しているし、裁判官の当たり外れ次第では「降車して電話に出ることは可能だった」等と言い放つ輩までいる。そのことを思えば、なんとも清涼剤と言うべき、すがすがしい判示とさえ言えるだろう。

ところで、地裁判決の言うように、「被疑者が弁護人に電話連絡することも弁護人依頼権の一内容として法律上保護される」というのは当然であるが、周知の通り、取調室では携帯電話を所定の箱に入れさせられ、自由に使えない状態である。携帯電話の使用を取調官の許可に係らしめる状況を作出することも、違法の疑いがあるし、仮に電源を切らせると、もう弁護人からの連絡は完全に遮断されるから、その時点で端的に違法となろう。

また、本欄本年5月15日付けで取り上げたように、別件勾留中の「在宅被疑者」の勾留質問に、弁護人の立会を拒絶した裁判官がいるのだが、これもまた、助言を受ける機会の不必要な制約と評価されなければならない筋合いである(勾留質問室に弁護人から電話する方法はないし、被疑者から電話する方法もないから、横に付き添うしかない)。

今回の札幌高裁もそうだが、心ある弁護士の不断の努力により、様々な国賠等の手段で具体的事例が積み重ねられているところ、捜査段階の手続法も、どこかで体系的に整備しなければ、随所で矛盾や綻びが目立ち、国賠のような事後救済でしか救われない~つまり本件の被疑者もそうだが肝心の場面では権利が全うされない~事態が延々と続くことになりかねないように思う。

事後救済は最低限のことに過ぎず、権利侵害はされないのが一番である。
権利侵害がされないようにするには、手続法を整備し、警察・検察・裁判所という、権力行使主体を具体的に縛る必要がある。例えば、勾留質問を含む供述機会という、札幌高判の言葉を借りれば「弁護人等に相談してその助言を受ける機会が十分尊重されるべき場面」に、弁護人の立会権を手続法上に明定することは、さほど難しい作業ではないし、かつ、権利侵害がされないようにするための唯一無二の方法であろう。

(弁護士 金岡)