前回、札幌高判を取り上げ、弁護人依頼権即ち弁護人の実効的援助を受ける機会の保障が適切に機能していることを紹介したばかりだが、今回は真逆の報告である。

名古屋市は昭和警察署、刑事課、担当奥田警察官は、弁護人が受任通知において、被疑者への捜査上の連絡は全て弁護人に行うよう求めたことに対し、それを無視して、被疑者に取り調べのための連絡を試みた。
「わざと」「取り調べのための」という要素は、何れも奥田警察官が自認した。
そして、上記要望に従う根拠が無いとか、悪いとは思わないなどと開き直る発言に終始したので、話にもならなかった(弁護人選任権すら知らない警察官に法を説いても仕方が無い)。

弁護人の知らないところで、警察官が密かに被疑者に接触し、直接対峙を迫る。その対峙の瞬間、被疑者は弁護人の実効的援助を受けようのない状態に置かれる。相当の弁えがあればそつなく「弁護人に連絡して下さい」と対応出来るだろうが、警察官にぐいぐい迫られれば、頭では分かっていても、なかなか簡単なことではないだろう。一人で対応するには限界がある。だからこその、弁護人依頼権なのである。
前掲札幌高判は「弁護人等への相談を不必要に制約しようとするような言動を控えるべき職務上の注意義務を負う」と判示したが、それに倣えば、上記のような連絡は、より直接的に弁護人との連携を遮断する行為そのものなのだから、「不必要に制約」より更に悪質であると評価して良い。

参考までに、往時は、「もし警察官から直接電話があったら」これこれするように、という助言をしていた時期もあるが、良く考えれば着信拒否にすれば早いので、依頼者と協議の上、着信拒否で対応することが多い。無論、着信があれば、すぐに抗議する。
弁護人依頼権を実体を伴うものにするには、現場で粘り強く積み上げていくしかない。

本件のような違法警察官は、まだまだあちらこちらに、それこそ浜の真砂の如く、いるのが事実である。
弁護人の助言の一つ一つが、依頼者の弁護人依頼権を活かしも殺しもすると言うことを自覚し、一つ一つに対応していくしか無いのである。

(弁護士 金岡)