本欄本年7月15日の(1/2)では、第1回公判前の三度の保釈請求が同一裁判官に配点されたこと、二度目の保釈請求が(忌避申立に手続停止効がないとすれば何故か)3週間も放置されたこと、放置されている間に証拠開示が進み、証拠意見を出せる段階まで来たが、証拠意見を提出するのを待つように求めても「結論は変わらない」(関和寛史裁判官・談)として判断を強行されたこと、わずか2分差で忌避申立を不適法と扱われたこと等を紹介した。
これほどひどい展開はなかなか記憶にもないが、まだある。

【4】 審理不尽と準抗告

3週間も放置された第2次保釈請求について、証拠意見を提出するのを待つよう求めたが判断を強行されたことについて、手続停止効違反及び審理不尽を理由として準抗告を申し立て、念のために「権利保釈事案かつ裁量保釈が適当であるとの主張を維持する」とも記載したが、準抗告審は、「審理不尽を主張する弁護人の論旨に鑑みると、当審において原決定の当否につき実体判断するのは相当ではない」という理由で、実体判断を行わなかった。

これも謎である。審理不尽があって判断の機が熟していないなら原決定を取り消すべきだし、判断の機が熟しているなら、準抗告審は実体判断を行う必要があるだろう。そのどちらも行わないという結論だけは有り得ないと思う・・のだが、特別抗告も三行半で(第4次保釈が許可された当日に)棄却決定が送達されたので、結局、謎は謎のままである。

【5】 保釈裁判と事実取調べ

審理不尽で思い出したが、第2次保釈請求においては、最終的に検察官請求証拠が整理されたため、事実調べの対象は検察官請求証拠に限定するべきだという主張もしていた。というのもこの事件は、捜査段階のA罪がずっと尾を引いており、裁判所は繰り返し、「継続捜査の必要性があることも加味して保釈を却下する」ということをしていたからである。

関和裁判官は、決定理由を書く方の裁判官であり(これ「だけ」は評価出来る)、曰く「刑訴法の規定に照らせば理由はない」とのことで排斥された。
請求証拠が定まってもなお、捜査段階の別罪の証拠を読みたがる裁判官。その別罪の記録は、公判の展開に影響を与えるのだろうか?与えないのだろうか。検察官では無い裁判官には判断しようもない筈であり(結局、なんの影響も与えなかった)、不見識極まると思う。

【6】 第3次保釈と第4次保釈

かくして、第1回公判の8日前に至り、結構な量の同意部分を伴う証拠意見も提出し、弁号証も全部揃えて一回結審万端の準備を整え、第3次保釈請求を行ったが、またもや関和裁判官に配点され、第1回公判の5日前だというのに相変わらず「継続捜査の必要性があることも加味して保釈を却下」という判断を喰らった。
あと5日で結審できると思うんだけどなぁ・・そこここに不同意意見はあるけど基本的にA罪を匂わせるところを削っただけなんだけどなぁ・・と思うも、準抗告も棄却され、とうとう第1回公判前に釈放は間に合わず。

で、その5日後、追起訴もなく、不同意部分は全部撤回されて、即日結審し、検察官は「不相当却下」意見を出すも、保釈は許可され、抗告も無く、被告人は釈放された。
第3次保釈却下から僅か6日。
その間の進展は・・第1回公判期日が行われて即日結審した、というだけであり、しかも、全ては弁護人の予定通りに進展した。
弁護人の予定通りに進展するならば保釈に支障が無いのに、第1回公判前の保釈が実現しなかったと言うことは、これら裁判所は、弁護人の進行予定を信用していないのか、信用しないとはいわないが実際にそうなるまで保釈に躊躇するのか、どちらかである。
もし、前者なら言葉もない。世の中には、虚偽の進行計画を提出して保釈をせしめる弁護人もいるのだろうか(私はまだ見たことがないが)。後者だとすると、進行計画通りに進まない合理的予測もないのに、数日を無為に収容することになるから、およそ、人身の自由を尊重したものとはいえないし、比例原則にも反する。

【7】 感想

あらゆる刑事事件は、最終的に保釈可能か、どうしても保釈は不可能かに、二分されるが、最終的に保釈可能な事件は、要するに幾つかの条件が満たされれば保釈可能であり、それは工夫次第で、起訴直後まで前倒しできるというのが私の確信である。
例えば被害者に対する罪証隠滅が有り得るという時、被害者尋問を待つのは工夫がなく、被害者が沢山いるので罪証隠滅に実効性がないとか、供述状況が保全されているので検察官の立証計画に被告人の働き掛けに起因する支障は想定しづらいとか、はたまた、被告人が被害者に接触し得ないと認めるに足りる環境調整をするといった、工夫、発想が幾らでも可能であり、そのような工夫、発想が凡そ通じない事案など、極めて稀であろう。

そういった考えから見たとき、本件は、厳に第4次保釈請求により保釈が許可されている事件であるから最終的に保釈が可能な事案に分類され、従って、それを起訴直後に前倒しできなかった理由はなにか?が問われるべきである。そうして教訓を引き出さなければ、誤判(や不適切弁護)は根絶できない。

・・と大きくは出てみたものの、なかなか「裁判所がおかしい」以上の原因が見出せないのが率直なところである。

起訴されていない別罪の継続捜査の必要性に囚われてい裁判官を、その妄執から解放する方法はあっただろうか?と考えると、これはもう性根の問題で、請求証拠以外を見るなと言ってもお構いなし、且つ、幾多の先行事件関与により強固な偏見を形成している裁判官に対し打つ手は思いつかない。

証拠意見を提出しても無駄、判断は変わらないという意味不明なことを言う裁判官をどうにかできたとも、思われない。名古屋地裁の、常態化している恣意的配点の被害を受けた、つまり公正な裁判が保障されていないことにこそ原因がある。

本件では逃亡を疑うべき相当の理由も相当に重視された嫌いがあるが、第1回公判を過ぎれば保釈できる「程度の」逃亡を疑うべき相当の理由が、第1回公判前に~起訴直後にどうにか出来なかった理由も、残念ながら分析不能である。こちらが逃亡しない担保として提供できた条件は、第1回公判前後で変わらないからである。

とまあ、つらつら検討してみたが、本件の保釈を第1回公判前、起訴直後に前倒しできない理由は見当たらない。証拠意見による解決は、保釈を人質に公判の(ややもすれば乱暴な)促進を強要されているようなもので本来的な解決の在り方ではないが、それをおいても、証拠意見提出時点で、本件に於いて保釈に適さない状況は全て失われていた。
上手くいかなかった事案こそ、なにかしらの教訓を引き出せる教材の筈だが、残念ながら本件に関しては、裁判所がおかしかった、という教訓しか見出せなかった。

(2/2・完)

(弁護士 金尾)