周知の通り、最二小1969年4月25日判決が訴訟指揮による証拠開示命令制度を創設して以降、弁護人の求める証拠開示について検察官が開示義務を負うかは、この判例が支配的であったが、「整理手続後の世代」の弁護士から、1969年最判に基づく証拠開示命令を申し立てたことすらない、という話が出た。
「整理手続後の世代」の弁護士からすれば、検察が証拠を出さないなら、整理手続にして類型・主張関連で開示させれば良いだけだという発想があるので、1969年最判のような仰々しい(分かりやすくいうと、殆ど使い物にならず、ないよりはましな程度の)制度を利用するという発想にならないのだろう。

全く、そのとおりである。
現代における証拠開示命令の在り方において、1969年最判は最早、死文化している。早晩、判例変更がされ、類型・主張関連と同水準で開示命令が出される(裁定制度が通常手続に逆輸入される)時代が来るだろうと思う。
参考までに、逐条実務刑訴299条の解説にも、非整理手続事案の証拠開示命令について、「整備された証拠開示制度の趣旨に沿った運用が求められると解される」、と書かれている(666頁)。

こんなことを考えたのは、名古屋高裁刑事第1部で、類型該当性・主張関連該当性が明らかな証拠の開示を求めても検察に無視され、裁判所に証拠開示命令を申し立てるも、一蹴されて結審されてしまったからである。

即興の異議申立理由(職権不発動だろうとなんだろうと不服があれば申し立てれば良い)は、調書上、以下のようになっている(「冤罪上等と言わんばかり」などと、やや上品さを欠く文言を用いたはずが、収録されていないのは御約束である)。議論のため、紹介しておきたい。
仮に予想通り、早晩の判例変更があるなら、「狭間世代」の被告人らの防御権保障はどのように償われるべきなのだろうか。結局、裁判所に人を得ないと、どうしようもない。

【以下、転載】
証拠開示命令申立書別紙1ないし10の証拠は、基本的に事件当日の被告人の意識状態に関するものであり、被告人の午後5時頃の意識状態が悪く、鑑定に対する同意ができるような状態ではなかった合理的な疑いがあることを明らかにするものであるので、弁護人が具体的必要性を明らかにして開示を求める以上、裁判所はこれに対して協力する義務があるはずである。
現在は整理手続が創設され、類型証拠開示請求と主張関連証拠開示請求という制度が創設され、弁護人の証拠開示を求める権利は強化されており、弁護人には、主体的に証明力を検討するための証拠やその具体的主張の裏付けとなる証拠の開示を求める権利があることは明らかにされている。
整理手続と通常手続とで弁護人被告人の防御水準が異なることは不合理であり、仮に本件が整理手続に付されていれば、原審検甲第1号証の現行犯人逮捕手続書の証明力を検討するうえで、ホテル従業員やその他の警察官の証拠はいずれも6号証拠として開示されるべきものであったし、少なくとも違法収集証拠との関係で、意識状態が悪いことを見聞きした従業員や警察官がいれば、主張関連証拠として開示されたはずであるから、一審の整理手続であれば手に入る証拠に関しては、控訴審であろうと手に入ることが保障されていなければ不公平である。
裁判所が職権発動をしないというのは、結局このような不公平な状態によって被告人のあるべき防御水準が一審整理手続段階に対し格段に劣っている点を是正しようとしないものであって、憲法の適正手続や裁判を受ける権利を全うするために、被告人の実質的当事者性を具体的に保障するために行使されるべき訴訟指揮権限が裁判所に付託された趣旨に背いて、 杜撰な裁判をしていると評価せざるを得ない。
このような職権不発動の判断は、違憲というべきであり、当然に違法である。

(弁護士 金岡)