買った記憶はないが、この本が事務所に届いていた。
しからば読むしかない(ただより高いものはない)。
目次を見ると、それだけで「濃い本」だということは分かるので、一気に通読するのは気が進まないが、どうしても読まねばと感じた範囲で、「司法面接の記録に対する伝聞法則の適用」(後藤昭)と、「小坂井古稀座談会」を読んだ。
読む前は、座談会なんて所詮は内輪ネタ程度のことと侮っていたが、案に相違して、しっかりとした「史料」となっていた。これは読む価値がある。途中から、自分が経験を共有している話題も出てくるが、当時は全く分かっていなかった、その歴史的位置付けを知ることが出来たのも有益だった。
興味深い発言を二つばかり、引いておく。
一つは、検察庁の可視化が進んだことで、(可視化そのものは進んでいないが)「警察の調書が問題になることも減りました」という遣り取り。後藤貞人弁護士が、「まずは黙秘しときなさいと助言する。仮に可視化されてない警察で変なことを言われたら、検察行ったときに検事に対して警察の取調べの様子を絶対言いなさいよと言う・・天才的な技量とかそういうのは全然いらない」と指摘されている。
最後の部分が大変に重要なところで、いまや、捜査弁護に「天才的な技量は不要」なのである。理屈と方法論は既に整備されており、学びさえすればすぐにでも十分な捜査弁護が出来る時代が来ている。
なお、「(可視化されている)検事に対して警察の取調べの様子を絶対言いなさいよと言う」の部分は、私の研修では「非・推奨」の遣り方として取り上げていることは、付け足しておきたい。
もう一つは、秋田真志弁護士の発言。「プレサンス事件は・・可視化がなかった時代だったら、簡単には無罪にならない事件」「検事が怒鳴りながら供述を強要している録音録画が出てきたから、捜査の異常さを浮き彫りにできたと思う」というもの。
存じ上げている範囲で言えば、秋田弁護士らしい発想、と感じる。録音録画により浮き彫りになった捜査の異常さを取り込んで弁護側のケースセオリーを構築する、というのは非常に高度な技だと思う(こういう視点において、自分に未熟さを感じる)。
・・関心を持った部分は必ずしも可視化の主題に直結しているわけではないかも知れないが、ともかく、この座談会は一読の価値があると思わされたことは確かだ。
(弁護士 金岡)