当ブログは、情報集積の場でもあり、研究ノートでもあり、自己実現の場でもあり、とにかく法律家としての営為を綴るものであるが、私的なものである以上、時に愚痴をこぼしたり毒付いたりしても問題は無い。何が言いたいかというと、今回の記事は、法律家としての営為であると同時に、毒付いているので、読まれる場合はそのつもりでどうぞ、ということである。

【1】
本欄本年7月29日「現代における証拠開示命令の在り方」の後日談を紹介しよう。
前回報告は、「名古屋高裁刑事第1部で、類型該当性・主張関連該当性が明らかな証拠の開示を求めても検察に無視され、裁判所に証拠開示命令を申し立てるも、一蹴されて結審されてしまった」というものであった。

【2】
控訴審で争点にしようとした一つが、A警察官がホテルの居室に乗り込み行った薬物鑑定等に被告人が同意したかである。被告人の主張によれば、睡眠薬を過量に使用しており意識はなかったというもので、それを支持する事情として、①先着したB警察官によれば被告人が倒れていたので無断で入室したことが報告されていること、②被告人は押送中、基本的に寝ていたこと(+捜査署内で椅子から落ちて負傷したこと)、③薬物事件で陽性反応が出ているのに、その日は採尿せず終わっていること(よほど意識状態が悪かったのだと思われる)等が挙げられる。
もし①②③のような事情が正しければ(②は23条照会で裏付けが得られた)、薬物鑑定に同意したというA警察官の報告が嘘だ、という可能性が出てくる。前後で意識状態の悪い被告人が、薬物鑑定同意の時だけ都合良く意識明瞭というのはおかしいからだ。
しかし検察官は①の捜査報告書の証拠開示に応じず(存在自体は弁護人において直接確認済み)、証拠開示命令申立も一蹴され、ついでに②も不必要却下され、何もさせて貰えないまま判決を迎えた。

【3】
判決結果はお察しの通り「控訴棄却」であるが、A警察官の捜査報告が虚偽である可能性について、裁判所はどのように判示したか。

「上記現行犯人逮捕手続書謄本その他関係証拠を検討しても、A警察官において被告人が意識朦朧状態にある旨の情報を共有していた事実は認められない上、被告人の上記状態に付け込んで捜査を行い、被告人の正常な同意を得ていないのに現行犯人逮捕手続書に虚偽記載をしたというような状況も認められないから、被告人の現行犯逮捕に至る状況は、上記現行犯人逮捕手続書謄本記載の状況であったと認められる」(名古屋高裁刑事第1部、2024年9月10日判決、杉山裁判長)

弁護人は、「先着したB警察官が被告人が倒れていることを現認してるのだから、A警察官は被告人が意識状態が悪かったことを知っているはずなのに、A警察官の報告では真逆に意識明瞭となっているから、嘘をついている」と主張した。
それに対する裁判所の回答は、「A警察官の報告によれば、そのような情報共有事実は認められない」というものである。

そりゃそうなるだろ、B警察官の捜査報告書の開示を命じず、ないものとして進めれば、A警察官の捜査報告しかないんだからA警察官の言うことが正しいという判決になるのは当たり前。実に馬鹿馬鹿しい話である。
原審で証拠同意されたA警察官(私は控訴審から受任)の報告しか取り調べないのだから、「(A警察官が)現行犯人逮捕手続書に虚偽記載をしたというような状況も認められない」となるのも当たり前だ。反対証拠を却下しておいて、弁護人の主張に理由がない、などという理屈が果たして罷り通るのだろうか。

【4】
はっきり言って、このような裁判所に、何の存在価値もない。ゴミでもまだ、使いようによっては再利用の可能性はあるが、この裁判所に関して言えば、少なくとも裁判官としては再利用の余地もなく、無価値である、と断じて良いだろう。

裁判所も所詮は人間であり、誤った思い込みに囚われて間違うことが多分にある、それだけに、こと苟も人を有罪にしようというならば、その証拠構造を動揺させる可能性を秘めた証拠開示を弁護人が要求する限り、「多分有罪だろう」という心証があっても、それを丸出しにするのではなく一歩引いて、これを十分に尽くさせる義務がある、そうでなければ正しい判決が行われない可能性がある、ということは、刑事裁判官の心得の1頁目に書かれていなければならない道理である。(このことは、後述の弁論再開申立で述べたが、全く相手にされなかったのはお察しの通りである)
この裁判所には、そのような弁えがなく、手続保障の意味理解も、誤判へのおそれも、何もない。そのような裁判官らに、存在価値を見出すことは最早、不可能である。

まあ、こうなることは分かっていたので、弁論再開申立(被告人の共犯者の方は、まだ地裁段階で、こちらと同じ争点が審理されるだろう見通しであったので、それと同じようにすべきだと主張した)、忌避など、一通りやったが、当然の如く簡易却下である。
巷間、自身に向けられた疑惑を公益通報扱いせず握りつぶしたと指弾されている知事がいるが、自身の公正さ(最低限の資質の欠如)を指弾された当の本人が平然と簡易却下する、というのは、全弁護士会から辞職勧告しても罰は当たらないと思う。

(弁護士 金岡)