刑訴法52条は、訴訟手続に関する事項について公判調書に排他的証明力を付与しているから、例えばどのような異議申立理由が述べられたかや、どのような忌避申立理由が述べられたかについては、公判調書の記載以上でも以下でも無いと扱われることになろう。
そうすると、弁護人が異議申立や忌避申立を行った場合に、それがどのような申立理由として構成されたかについての公判調書の記載は、正にその申立内容を正確に把握する上で過不足無く正確に記録されなければならないはずである。少なくとも、申立人ではない裁判所が勝手に要約したり削除したりするのは、最早、申立理由の改ざんというべきである。
と、強く指摘してみたが、公判調書の手続部分を謄写し仔細に点検すると、かなり幅広く要約が行われている場面に遭遇すること、一再ならずである。本欄では例えば、腰縄手錠の解錠時期を巡る一連の遣り取りを実録した、2020年8月18日付け記事で、大幅な調書異議が認容されたことを報告したことがあり、参照して頂けると良い。
整理手続期日の議論状況などでも、ちょっと待てよという要約や整理がされていることはあるが、これが前記のような申立理由の正確性を損なう改ざんとなると事態は深刻である。
さて、ことは名古屋高裁刑事第1部の先日来の案件である。何が問題かは本欄2024年9月11日付けなどを御覧頂くとして、要するに、弁論再開申立に対する職権不発動に対する異議、ついで忌避申立を行ったが、悉く相手にされなかった、ということを記事にした関係である。
実は、本欄2024年7月29日で報じたように、証拠開示命令申立を巡る一連の遣り取りが公判調書上、相当部分削除されているという伏線があった。
そこで今回は、わざわざ「前回、裁判所に対し冤罪製造機と表現した部分が調書上、削除されていたが」と嫌みに指摘して、さて、今回はちゃんと書かれただろうかと、届いた謄写物を確認すると・・・異議申立理由、忌避申立理由ともに、ものの見事に改ざんされ、冤罪製造機と指弾した下りも消され、簡易却下は兵庫県知事と同じく笑いものになると指摘した下りも消され、ひどく改ざんされていることが判明した。
表現ぶりの問題だけかと思いきや、それどころか、過去の冤罪事件に学べと、証拠開示が決め手となって逆転した事案の説明部分、そこから引き出せる教訓の説明部分、更に本件の争点を改めて指摘して証拠開示の必要性があることに言及した部分、大川原化工機事件や横浜江口元弁護士事件等を挙げて検察を批判し、裁判所も同罪だとしたくだり・・・弁論再開の必要性相当性を支える本質的な部分が全て削除されていることも判明した。
というより、8分程度の異議申立理由が僅か11行になっている!!!
無能にして存在価値すら疑わせる裁判所、というだけでもどうしようもないが、これに加えて公判調書を改ざんし、弁護人の申立理由まで骨抜きにし、いかに正当な申立と不当な決定が行われたかを揉み消すとは、実に悪辣である。残念ながら史上最低とまでは言い切れないが、それと良い勝負をしている。
当然、異議を申し立てる必要があるし、刑事告発も視野に入れざるを得ない。
溜まった起案を進められそうな折角の三連休だったが、先ずはやるしかない。
(弁護士 金岡)