余りにも当然すぎて、書くべきかどうしようか、迷わないでもなかったが、やはり大事なことであるからには書いておこうと思った。

著名弁護士が旧ツイッターを更新し、元タレントや暴力団関係者、司法書士会連合会副会長らが逮捕された件について「司法書士会の大不祥事。会の記者会見も必要です。」と発言されたことが報道されている。

本欄では同様の話題について、例えば2022年7月12日付け「日弁連会長声明に見る『手続保障』」等で、逮捕報道によって恰も報じられた事実が存在するように決め付け加熱騒動の尻馬に乗ることを批判しているが、日弁連といい、単位会会長といい、著名弁護士といい、この極めて基本的な一線を守れない人が続出することには、暗澹とした気分に陥る。
私自身、この事件のことは全く知らないので、その副会長さんが深く関与しているのか、それとも上手く利用されただけなのか、ひょっとしたら完全な人違いで巻き込まれて逮捕されただけなのか、そんなことは分からない。
一つ確かなことは、逮捕報道を事実と決め付け、「大不祥事」と騒ぎ立てることは、無罪推定に反し、また、不確かな根拠に基づく名誉毀損行為であり、苟も、憲法や刑訴法を修めた弁護士がなすべき事ではない、ということである。

過去の冤罪事件から様々な教訓を学ぶとき、一つ気付かされるのは、人間関係が濃密な小規模の集落で凶悪事件が発生し犯人捜しが始まると、「誰かを犯人にしないとおさまらない」ので、取り敢えず疑われた人が、別件逮捕等の無理のある逮捕等を伴う捜査手続に苛まれ、耐えかねて虚偽自白に陥る、よしんば虚偽自白には陥らないとしても、捜査機関は見立てに沿う情報だけを集め(時には一定の日付で関係者の供述が一斉に変更される)、見立てに沿わない情報は闇に葬るという構図である。
このような冤罪原因は、即ち、推定無罪を守らず、真逆に、被逮捕者が出ると全ての矛先が被逮捕者に向かい、過熱報道等の騒動が起き、あることないこと次々と醜聞が出てきて寧ろ流れが加速していくという現象であり、推定無罪を守り、積極消極の双方向から冷静に事態を推移させることの重要性を裏付けるものである。

先の日弁連と言い、今回の著名弁護士と言い、そのような過去の冤罪事件の歴史に何も学べていないのだろうか。
憲法、刑訴法を修めた弁護士こそ、逮捕報道によって決め付けようという世の流れに、例え現実から遊離していると冷笑されようとも、抗う必要があるはずである。
袴田再審の無罪判決が世を賑わしている中で、またも繰り返される「逮捕=大不祥事」の決めつけは大変に残念であり、「法的リテラシー」や法教育の欠如、過去の冤罪に学ぶことの難しさ、要するに人間の愚かしさを見る思いである。

(弁護士 金岡)