先だって冤罪学の権威(というと、さしあたりお一人しか浮かばないが)とお話しをする機会があり、その中で、「診断エラー学」に感じ入った趣旨のことを仰っていた。
まだ正式な学会というわけでは無いようであるが、診断エラー、つまり医師の誤診について、事例を出し合い、議論を通じて誤診に至る分岐点を探り、今後の誤診回避に役立てようという発想に基づく集まりらしい。
司法の世界では、極めて稀な名のある冤罪でもなければ警察や検察が原因検証を行うこともなく(少なくとも公表されないから此方には分からない)、それどころか国賠にでもなると「当時としては問題なかった」の一点張りで回避不能を強弁するに終始し、改善志向すら無い。裁判所は裁判所で、裁判官の独立を隠れ蓑にそのような営みには拒否的である。
ましてや、法曹三者が協調してこれを行い、知恵を出し合って誤判回避向けての検討を進めるということになると、全く行われていないのではないかと思う。しかし、誤判回避を目指さない法曹がいようはずもないから、法曹三者が協調して「誤判回避学」を目指すというのは、目の付け所が良いと感じ入った次第である。
そして、氏によれば、前向きな「誤判裁判例集」なるものを構想されたいようである。つまり、異論を許さず誤判と言える裁判例を集めて、それぞれに、どこに誤判に至った分岐があるのかを分析し、決して、貶したり否定したりするのではなく、あくまで前向きに、ここをこうすれば誤判を回避出来たのではないか、裁判例解説よろしく呈示するという趣向であろう。
一つ一つの事例は個性が強く、一般化しづらいとしても、このような形で教訓を取り出していけば、その累積から、誤判回避のための注意則が浮かび上がり、それを要領よく摂取することで誤判を回避しやすくなるのではないかという期待感はある。
三者を巻き込んでの遣り取りでなければ一方的な批判に陥るだけであり、それは本来的では無かろうと思うと、そう簡単なことではないが、本欄でも取り上げておきたいと思わせるだけの魅力はあった。
(弁護士 金岡)