「するする詐欺」というのは全くの造語なので説明すると、保釈案件で検察官意見を確認した際に、実際には行われないだろう公判の立証方針が声高に喧伝され、それ故に罪証隠滅を疑うべき相当の理由あり、等と主張されている場合のことである。
これこれの余罪について捜査中であるから重要な情状事実について罪証隠滅を疑うべき相当の理由がある、とか、この点も公判で立証予定であるから係る証拠関係について罪証隠滅を疑うべき相当の理由がある、などと保釈妨害の「為にする主張」が展開された挙げ句、いざ公判になってみるとそんなことはない、というような事態がまま、見受けられる。「するする」と裁判所を騙して保釈を妨害する悪巧みであるから、「するする詐欺」と命名したが、裁判所は実に騙されやすく、弁護人から見ればザルというべき令状審査っぷりであると毒付きたくなるような結論が飛び出す。

事案は、(本質を損なわない程度に改変するが)犯罪収益を隠蔽したとして組織犯罪処罰法で逮捕を繰り返されていた被疑者が、そちらでは起訴できないまま、当該資金移動が特別法の無許可営業に該当するとして軽微な業法違反だけで起訴された、というものである。無許可営業は認めるが組織犯罪処罰法違反は否認し黙秘を徹底(というよりそもそも取調室に行かなかった)する防御方針であった。

検察官は、業法違反を起訴すると同時に接見等禁止も請求し、裁判所(裁判官A)はこれをあっさりと認めた。後に接見等禁止請求書を謄写して確認すると、正しく、組織犯罪処罰法違反について検察官の見立てが大展開され、被告人は黙秘する、関係者は一様に口を噤み或いは被告人を庇い立てしているから、保釈すると罪証隠滅が行われるに違いない、等と散々な書きようであった(くどいようだが、業法違反だけで起訴しておきながらこれである)。

で、保釈請求の段になっても検察官の意見は変わらず、組織犯罪処罰法違反の未解明を理由に保釈にも強硬に反対する意見が提出された。
これに対し、弁護人として種々の指摘をしたが、中でも中心的に指摘したのは、平たく言えば「所詮は起訴できなかった組織犯罪処罰法違反について、それを業法違反の動機として位置付け重要な情状事実に該当すると叫んだところで、起訴できなかったと言うことは立証しようも無いのだから、公判に出てくるはずも無く、罪証隠滅とは無関係の事情である」ということであった。これに対し検察官は「公判で立証予定」と、愚にも付かない反論をしてきたが、裁判官Bにより保釈が許可され、検察官は準抗告をした。
準抗告審において、検察官は、非勢を悟ったのだろうが、唐突に「被告人が業法違反事件について否認に転じるかもしれない」という訳の分からない主張を繰り出すに及んだが、準抗告審裁判所は特に相手にせずこれを棄却した。

さて、前記の論点についての準抗告審の説示は次の通りである。
「なお、検察官は、本件において(対象となった)現金の由来に関する認識を重要な情状事実と位置づけ、その罪証隠滅のおそれを理由として保釈を許可すべきでないと主張するが、被告人が別件の組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等の取得につき事実を仮装隠匿したというもの)により逮捕勾留されながら、未だ同事実により起訴されるに至っていないこと等に照らし、そのまま採用できない。」(名古屋地決2024年12月11日、大村裁判長)

こちらの指摘を採用し、犯罪収益を隠蔽した故意犯で起訴できていないのだから、犯罪収益を隠蔽する動機で業法違反を行ったなどと立証するのは土台無理でしょ、という突き放した説示と理解される。検察官の公判における立証計画(と称するもの)を、起訴直後の、係属審裁判所でもない裁判所が否定したのだから、割と踏み込んだ説示では無いかと評価する。

(2/3に続く)

(弁護士 金岡)