【2】裁判官はどの程度、分かっているのだろうか

今回の「するする詐欺」について、幸いにも「審判の対象とはなるまい」と判断して検察官の主張を排斥した決定が得られて、被告人の保釈が確定したわけであるが、果たして裁判官はこのように、第1回公判前の保釈請求段階における検察官の主張立証見通しが、まま、ありそうもない内容であること(について、ある種の経験則が成立していること)について、どれほど理解できているものだろうか。

というのも、今回紹介した事案において、(1/3)で紹介したとおり、起訴できなかった組織犯罪処罰法違反について検察官の見立てが大展開された「だけの」接見等禁止請求をあっさり認めた裁判官がいる、という厳然たる事実があるからである。
確かに、第1回公判前の保釈担当を係属審裁判所から切り離している限り(人数の足りない小規模庁のことは分からない)、係属審裁判所が、第1回公判前の保釈請求時の検察官の主張立証見通しが実際のそれとは大きく異なる(大袈裟なものである)ということを比較検討する機会はあるまい。係属審裁判所の立場からは、見ようと思えば第1回公判前の保釈請求時の検察官意見を後に見ることはできようが、予断排除や証拠裁判主義の建前から敢えて見ようとはしないだろう。
そうしてみると、案外、裁判官は、このような欺瞞的な手法が罷り通っていることに気付かないで過ごしているのかもしれない。

だとすれば今回の連載で啓発することには意味があったと思う。

【3】相変わらずの配点の偏り

主題からは逸れるが、近時の問題意識として、配点の偏りについても言及しておきたい。過去に言及したものとしては、本年7月15日「ここまでダメな保釈騒動」がある(因みにそこで取り上げている事件も、起訴できなかった事件を継続捜査中だから保釈するなと言う検察官の無茶な主張が提出され、しかし蓋を開けてみると結局、そのような継続捜査とやらは影も形も無く、判決後は早々に不起訴処分がなされた「するする詐欺」的展開であった)。

要するに、同一当事者の身柄事件の裁判が、同一裁判官にばかり配点され、常に新しい目で謙虚に判断を見直す、という理想とは真逆の事態が起きている、ということである。名古屋地裁の場合、刑事裁判官だけでも相当数いるから、毎回新顔に配点しようと思えば数回は持ちこたえようところ、敢えて同一裁判官にばかり配点して、記録検討の手間を省かせようとしているのだと疑われる。

今回の依頼者についても、3回の勾留/勾留延長、及び形式的な業法違反での起訴(こちらは、組織性だとか新規捜査が必要だ等として蒸し返し勾留の主張を退けた勾留準抗告棄却から僅か4日で起訴され、相変わらず裁判所さんは騙されやすいですねぇと毒付く展開であった)、あと接見禁止と、結構な数の身柄裁判が飛び交ったところ、ざっと集計しただけでも、「地刑4部の面々と、数合わせの地刑5部・左陪席」の4人が大半を回していることが判明している。
つまり、地刑4部・左陪席の関和裁判官(以下、敬称を略する場合あり)が、第1事件当初勾留・勾留延長、第2事件延長準抗告、第3事件接見等禁止一部解除準抗告、第4事件勾留を担当し、久禮・藤根・永野(5部・左陪席)が、第1事件延長準抗告、第2事件接見等禁止一部解除準抗告を担当し、久禮・藤根・関和が第2事件延長準抗告、第3事件接見等禁止一部解除準抗告を担当し・・といった具合である。
なんと(7月15日の記事でも槍玉に挙げた)関和裁判官が全事件に何かしらの形で関与し、準抗告審になると(関和裁判官は4部の左陪席なので数合わせに5部・左陪席の永野裁判官を連れてきて)4部のその他大勢が担当する、原裁判が関和裁判官でない場合は関和裁判官が復帰した4部の面々で準抗告審を担当する、という異常なまでの配点の偏りである。

なお、以上のような配点の偏りは、本欄のためにわざわざ数えたのでは無く、保釈請求に当たり、これら傾向的前件関与裁判官には配点しないよう上申書を提出するために数えたのであるが、保釈担当裁判官は、上記4名でこそないが、第3事件で準抗告審を二度、担当した合議体の裁判官であったので、こちらの要望は通っていないことになる。
また、保釈準抗告審は地刑5部に配点されたから、その合議体には、上記「5部・左陪席」である永野裁判官が加わっており、同裁判官こそ、「するする詐欺」に騙されたか、あっさり接見等禁止決定を付した張本人である。

とまあ、かなりごちゃごちゃしているが、要するに特定の裁判官だけでぐるぐる回す負の連載に嵌まると、ひどい事態になる。
奇しくも、前回7月15日も今回も地刑4部でぐるぐるしていたことは、~今後の実証的な研究が必要だろうが~特定の裁判官に配点されると、とにかく過剰な拘束に進む結果、身柄裁判が増え、更に同一傾向というか同一の裁判官らに配点されて、結果として、ぐるぐるし出すことに原因があり、他の裁判体で同じ現象がさほど目に付かないとすれば、その意味するところはかなりまずい事態であると言えようか。

あと、起訴直後の接見等禁止請求をあっさり認めた永野裁判官が合議体に加わった保釈準抗告審で、「するする詐欺」批判が飛び出し検察官準抗告が棄却されたのは、一体どういう合議がなされたのか、いつか知りたいものである。

(弁護士 金岡)