他の弁護士が身体拘束中の依頼者のSBMに挑み、そして失敗した状況を目撃したので報告する。

場面は整理手続であり、非公開である。
私は後から弁護団に加わった関係で、主任(古田弁護士)の申立を横で見ていた。
裁判体は名古屋地裁刑事2部、坂本好司裁判長である。

古田弁護士がSBMを申し立てたところ、坂本裁判長は「拘置所の御意見は」と。
そして名古屋拘置所職員の回答は「承服しかねる」というものであった。
そして裁判長は、「被告人は弁護人の前のベンチに着席するよう」訴訟指揮権を行使した。古田弁護士は食い下がり、裁判長の判断根拠の説明を求めたが、要約すると「拘置所の意見を参照した以上のことは説明しない」の一点張りで終わった。

古田弁護士が異議を申し立て、主に依頼者との意思疎通の妨害であることを指摘したところ、裁判長は「被告人が弁護人の前のベンチに着席するのでは、弁護上、必要な意思疎通が全うできない理由があるか」の確認を求めてきた。
古田弁護士は「より望ましい意思疎通の在り方として当然に優る」趣旨を説明したが、異議は棄却された。

以上が顛末である。

「腰縄手錠問題」が人権大会で取り上げられる時代において、また、弁護人前のベンチが撤去されておりSBMしかない法廷もあるというのに、拘置所が「承服しかねる」という時代錯誤の姿勢をとることが驚きの(驚いてはいないが驚くべき)第一点。なお、古田弁護士は拘置所職員個人の意見なのか拘置所そのものの意見なのかも問題としようとしていたが、確かにすっきりしないところではある。

裁判所が、他の真っ当な根拠を明らかにすることをせず、結果的に拘置所の意見を主として考慮した帰結になっていることが驚きの(驚いてはいないが驚くべき)二点目。せめて、どうして承服しがたいのか、尋ねるべきだっただろう(対象事件だから公判になればSBMである。であれば少なくとも戒護上の支障を問題とすることは出来なかったはずだ。)。それもせず「拘置所が反対しているからやりません」では、赤子同然の未熟さでは無いか。

裁判長が真顔で「被告人が弁護人の前のベンチに着席するのでは、弁護上、必要な意思疎通が全うできない理由があるか」の確認を求めてきたのが驚きの(驚いてはいないが驚くべき)三点目。いつもいうことだが「じゃあ裁判体も縦並びになれよ」と言いたい。

古田弁護士は、前記訴訟指揮に弁護人の着席位置は取り沙汰されていないことを確認した上で、被告人用の机の前に裁判所向きに着席し、斜めではあるが被告人から話しかけやすい位置取りをした。(被告人と拘置所職員の間に座らせろ、と主張しても、どうなるかはお察しだが、そういう展開にはならなかった)
私が本来の弁護人席に居残ると、古田弁護士との意思疎通が難渋し、困った。ちょっと距離ができれば正面方向でも声を出すことは憚られる。ましてや「後ろを向いて」「机越しに」発声するなど、慮外である。なんで隣じゃないといけないのかと(無邪気に)問う裁判所には絶望しか無く、「いい歳して・・」と溜息しか無い。

(弁護士 金岡)