少なくとも私の経験にはなかったので報告する。
刑訴法227条の起訴前尋問の反対尋問を別期日にしたというものである。

経過としては、起訴前尋問に弁護人が立ち会うことは勿論として、保釈中の被告人についても立ち会いを求めたことに端を発する。
立ち会いを求めた理由は、反対尋問権保障という形式論に加え、起訴直後で証拠開示もない状態では、部外者の弁護人において、特定の証言が事実に反し弾劾すべきものなのか、真実であり弾劾を要しないのか全く区別が付かず、被告人にいてもらわないと困る、という点にあった。
裁判所は、被告人の立ち会いには消極であったが、上記理には理解を示したと思われ、検察官は反対しているが反対尋問を別期日にして、期日間に被告人と打合せをする機会を保障しようということで、上記のような訴訟指揮になったと思われる。

事案は、不法就労助長のこちらが雇用者側、証人は被用者であり、同人に退去強制が有り得ることから227条尋問となった。
被告人の立ち会いを認めないことについては、判例上、裁判所の合理的裁量に委ねられているが、異議申立に対する裁判官曰く、①事案の性質、②制度趣旨に鑑み、認めなかったという。事案の性質・・と言われても、単なる不法就労(被用者側から働き口を求めて雇われた経緯に争いはない)事案で、被告人の立ち会いを認めない理由が導けるとは思われないし、保全尋問の制度趣旨から被告人の立ち会いを排除する理屈は当然には出てこない(法律は裁量的には立ち会いを認めている)ので、全く以て説得力はなかった。
常々思うが、こういう横暴を糺す装置がないため、裁判官がまともに育たないのだろうと思う。

それはさておき本題に戻ると、起訴前尋問はただでさえ実効的な反対尋問権を行使するのが難しく(証拠開示が進んでいない状態で行われるから)、弁護実践には困難を伴うが、被告人不在となると尚更である。被告人の出頭確保に困難はないのだから、積極的に要求していき事例を積み上げるべきだと感じた(そういう意味では、自身のこれまでの実践にも反省点がありそうである)。
そういう目で見たとき、せめても反対尋問を別期日にして打合せ機会を保障する、という視座自体は(そこまでして被告人立ち会いを排除する合理的な理由を感得しがたいため合格点はつかないが)有り得て良い。

(弁護士 金岡)