要約(及び本質を損なわない範囲で改変)すると、事実と異なる申告をして、提携先に被告人自身に関する虚偽の帳簿データ入力をさせた、という公訴事実がある。
罪名は私電磁的記録不正作出・供用。
余り馴染みの無い犯罪類型であることも影響してか、構成要件の理解がどうにも「気持ちが悪く」、研究者に相談してみると、立法段階から議論されている事柄だと教えて頂いた。文書偽造の場合、有形偽造と無形偽造に分類して、私文書の場合、無形偽造の場合は処罰規定がないが、私電磁的記録の場合も同様に「無形偽造」に相当するような場合は処罰対象とならないのか否か・・を巡り、1987年の国会で議論されていること(米澤説明員「虚偽の文書的な電磁的記録を作成した場合には本罪は当てはまらない」)など、初めて知った。1987年といえば、無論、私が司法試験の受験勉強をしているより遥かに前のことだから、受験勉強の過程で学んでいてもおかしくはないのだろうが、記憶にはなく、且つ、この20年というもの一度も関わらずに来てしまったということになる。
同研究者曰く、著名な刑事弁護士が法制審で熱心に恣意的に処罰対象が広がらないよう努力されていたというが、その方も既に鬼籍に入られている・・そういう時代の議論を紐解いていると、「親の顔ほど見てきた」筈の刑法の、その歴史の、ほんの一角しか知らないでいることを思い知らされる。
勿論、自分で全てを知ることなどおよそ不可能事である。
たまには基本書も通読し直さなければならないだろうし、とにかく基本的な部分で感性を失わないようにして、おかしいと思ったら食らい付いてみる、ということに尽きると、改めて思った次第である。
(弁護士 金岡)