司法研修所の「刑事専門研究会」なるものがあり、その議事概要を開示請求できると教えて貰い、早速、開示請求を行った。2012年以降分を開示請求したが、足かけ半年、2017年以降分のみが開示された(保存期間経過とかだろうか)。

開示されただけでも、
・被害者を巡る実体法・手続法上の諸問題
・控訴審における諸問題
・裁判員審理~判決の在り方
・被害者特定事項
・裁判員時代における控訴審の在り方
・協議・合意制度、刑事免責
・司法面接
・裁判員時代における控訴審の在り
・裁判員との協働
・よりよい刑事裁判
・性犯罪事件の審理運営上の諸問題
・被害者保護
・性犯罪関連法改正
あたりが議論されており、読み応えは十分にある。
勿論、発言者は匿名だし、おそらく無難な内容に丸められているだろうから、これを知って明日から役立つというものではないだろう。しかし、そういう考え方であると分かった上で自覚的に対応を考えるのと、そうでないのとでは大違いだから、知っておくに越したことがないというのも事実だ。(情報公開で開示されるようなものなら、もうちょっとこう、公表したり、弁護士会には自動的に提供して貰いたいものだと思う)

例えばということで、2018年4月の「控訴審における諸問題」を見てみよう。
「2」として、一審から新たな間接事実が付加された場合に控訴審裁判所としてどう対応すべきかが論じられている。曰く。

【1】「それを調べると、犯人であることが間違いなく立証できて、それをそのまま放置することが社会的に不合理であるというような極限的な場合でなければ調べないのではないか」などという意見が出されている。

⇒ 果たして逆の場合、即ち犯人性の認定に疑問が生じるが、犯人でないことが間違いなく立証できるには至らないような場合、どうなるんだろう?と思う。犯人性の立証に疑問が生じるなら、それを放置することは社会的に不合理だと思うが、この「極限」論者がそのような弁えを持っているかは疑わしい。

【2】「一審がきちんとした審理をしていれば、控訴審で、決め手となるような間接事実がポンと出てくるということは、普通はないのではないか」

⇒ ここでも「決め手」を追い求めているようであるが、大いに問題だ。決め手がぽんぽん出せれば世話はない。立証側を受け持った経験があれば、遠い証拠や弱い証拠を総動員してなんとか本丸に迫ろうという営為を丸ごと否定するような意見は出てこないと思うのだが、だから「世間知らず」と揶揄されるのだろう。

【3】「結論に影響を与えそうな間接事実が新たに主張されたときが一番悩ましい。しかし、こういうものを安易に調べてしまうと、『原審と当審の証拠を総合』して心証をとることになるから、結局のところ、心証比較説になってしまう。」

⇒ 「結論に影響を与えそうな間接事実が新たに主張されたとき」こそ控訴審の醍醐味ではなかろうかと思うのだが、余程、仕事をしたくないように思えてしまう。
検察側と、被告人・弁護人側とには多層に渡る力の格差があり、一審から「完全解」を求められても困るし、一審で訳の分からない不意打ちを食らい、新たな間接事実を足さざるを得ない場合など日常茶飯事である。控訴審が空疎なのも宜なるかなである。

とまあ、役に立つのかどうかは分からないが、関心をそそられることは確かである。

(弁護士 金岡)