本日、3人の被害者の性犯罪事件のうち、2人分で無罪判決を得たが、到底、納得感はなく、ここで紹介するかどうかも要検討である(それなりに興味を引く事案ではあるので折を見て紹介したいとは思うが)。

代わりにといっては何だが、件名の事例提供を頂いたので紹介させて頂く。

第1回公判期日において、罪状認否が留保され、冒頭陳述に入らず手続が終了した。弁護人のその後の保釈請求に対し、受訴裁判所(津地裁)が却下決定をした。
弁護人は保釈すべきだとして抗告したが、名古屋高裁は、抗告理由に立ち入る前に職権で次の判断を示した。

「現段階は、裁判所にとつて予断を生じるおそれのある資料に接することが許容される段階に至つておらず、刑訴法280条条1項にいう「第1回の公判期日」は終了していないものと認められる。従って、各保釈請求の判断は、裁判官が行うべきものであり、原裁判所がなし得ないものであるから、各原決定は違法であつて、これが決定に影響を及ぼすことは明らかである」(名古屋高決2024年11月11日)

いわゆる「実質第1回」だったかどうかで、上記経過を踏まえると当然の結論ではあるだろう。
なお、決定文の別の箇所で「公判調書の記載に、刑訴法280条1項にいう『第1回の公判理日』が終了したか否かに関する訴訟関係人の認識等についての記載はない」と言及されている。そういえば時々、冒陳に進まない程度の事案で「実質第1回は終わったと言うことで良いですか」と裁判官から尋ねられることがあったが、こういうことかと思い至る。

ということで、まあ当たり前の決定ではあるのだが、驚くのは後日談の方で、担当弁護人によると、受訴裁判所であった担当裁判官は、そのまま審理担当を続投したとのことである。
上記決定文中で、「予断を生じるおそれのある資料に接することが許容される段階に至つて」いないことが問題とされるのであれば、そのような時期に、保釈審理のための一件記録を検討してしまった裁判官には、治癒不能な予断が生じたということになる理屈である。先日東京地裁が、最高裁判例に忠実に前科の記載のある起訴状を理由に公訴棄却をしたことが報じられていたが、(本件では3号事由が認定されているから間違いなく)前科資料などを検討してしまった受訴裁判所は、その時点でもう、治癒不能な予断を抱いており、訴訟当事者が何といおうと、回避するしか無かったのでは無いか、と思われるのである。
本件の被告人は控訴したとのことであるが、まだ係属中なら、是非、この理を指摘して、絶対的控訴理由を主張してみて欲しいと思う。

(弁護士 金岡)