本欄2022年4月6日において、「デジカメデータ原本は、判決確定まで保存される扱いらしい」ということを紹介した。
これは警察庁の鑑識系の通達(2019年3月29日付け)の内容を紹介したもので、該当記事においては該当通達のリンクも貼っておいた。
この程、ちょっとした必要から上記リンク先を開こうとすると、ページが見当たりませんという表示が出てしまい、おかしいなと直接警察庁の掲載サイトを調べたところ、2024年4月1日付けで新たな通達が登場していた。
(該当通達)
https://www.npa.go.jp/laws/notification/keiji/kanshiki/kanshiki_r06-17_camera.pdf
2024年4月1日付け通達は、「デジタルカメラで撮影した画像の管理要領の制定について(通達)」と題するもので、柱書によると2019年3月29日の通達を廃止したわけではなさそうだが、しかし掲載サイトからは2019年3月29日付け通達が消え失せて2024年4月1日付けに置き換わっているのが事実である。
(掲載サイト)
https://www.npa.go.jp/laws/notification/keiji.html
そして、判決確定まで保存されるとなっていたはずのデジカメデータ原本については、2024年4月1日付け通達によると、以下のように後退している。
【6 原本媒体の廃棄
⑴ 原本媒体は、捜査の終結その他の理由により保管の必要がなくなった場合は、確実に廃棄すること。なお、管理責任者は、原本媒体の保管について、捜査や公判の状況等を踏まえ、その必要性を慎重に判断すること。】
なお書きによれば、保管が必要かどうかは慎重に判断しろ、とあるので、デジカメデータ原本は原則的にさっさと廃棄しろ、というように読める。また、判決確定までは保管するという縛りもなくなり、捜査が終われば原則廃棄、というように読める。
有罪方向のデータを必要な範囲で証拠化したら、あとは原則廃棄し、公判になって被告人から幅広い原データの開示を求められても「原則通り廃棄しました」で押し通すつもりなのだろうか。
警察庁を挙げて証拠隠滅を励行しようというのであれば、実に見下げ果てた姿勢であるが、このような著しい改悪作業を秘密裏に行っていることには恐怖しかない。
一点、まだ良く分からないので注記しておくと、上記【6 原本媒体の廃棄】における「原本媒体」の定義は、「原画像記録媒体のうち、捜査終結等により、警察において今後の利用が見込まれないものをいう。」とされており、「原画像記録媒体」とは「犯罪捜査に従事する警察職員が職務上デジタルカメラで撮影した画像の電磁的記録をいう。」とされているので、以上を平たく解釈すると、①警察官が捜査過程で撮影したデジカメデータのうち、捜査が終結する等して活用が見込まれないものは原則廃棄し、②そうでないものは2019年3月29日付け通達に従い判決確定まで保存する、という話なのかも知れない。
もしこのように、なんでもかんでも判決確定まで保管するのではなく、捜査が終結して不要な範囲では廃棄していって良いと言うことを明確化しただけだ、というなら、目くじらを立てる程か?と思われるかもしれない。
しかし、原則早期に廃棄方向の原本媒体即ち「原画像記録媒体のうち、捜査終結等により、警察において今後の利用が見込まれないものをいう。」という定義規定からすれば、弁護活動や裁判の必要上、利用が見込まれるかどうかを度外視して、警察の都合だけで廃棄して良いということだから、それはやはり危険なことである。前掲【6】に「捜査や公判の状況等を踏まえ」という文言があるから、裁判になっていても廃棄方向、ということが当然に発動しうる。
裁判の状況、裁判がどのような争点になっていくか与り知らぬ警察が、(裁判になっていようと捜査自体は終結したとして、)本当に保管し続けなければいけないかを勝手に判断して原則廃棄方向で判断するというのは、取り返しの付かない事態をもたらすこと間違いない。
かてて加えて、判決確定まで保管すべしとした2019年3月29日付け通達が読めなくなっているということも足し合わせると、結論、判決確定まで保管というのはなし崩し的に有耶無耶にし、警察の判断した捜査終結をもって、基本的に「原本媒体」として廃棄が予定されており、警察が有罪立証に資すると判断して保管した一部を除き、全て消去されるのだろうと思う。
公判準備において、デジカメデータが不揃いだったり、露骨に一部のデータが隠されていたりすることは日常的に経験する(弁護人が苦労してその点を暴き、無罪に結実した事例は複数が知られている)が、あとから文句をつけても「消すことになっていますので消しただけで証拠隠しはありません」と、押し通すのだろう。
2024年6月、鹿児島県警について、再審や国家賠償請求訴訟で利用されるのを防ぐために捜査書類の廃棄を促す内部向けの文書が作成されたことが報じられているが、同じ穴の狢に思える。
結論、裁判妨害であり、証拠隠滅という犯罪であり、冤罪をもたらす人権侵害である。
弁護士会は、このことを重く見て、調査した方が良いと思う。
(弁護士 金岡)