2025年3月31日付けで、福井弁護士会が、北陸銀行及び北國銀行に対し、口座利用契約を申し込んだA氏について、A氏が反社会的勢力の構成員及び準構成員であることを前提とした取り扱いをしないよう、要望した、という人権救済事案である。

A氏の申し立ては、要するに、警察がA氏を暴力団組員であるとの誤った報道発表を行ったために、幾ら否定しても(福井県警から現在暴力団組員ではないとの回答を得ているというのに)反社会的勢力に属するとして口座利用契約を拒否されていることが、人権侵害である、というものである。
福井弁護士会の発表資料によると、一部金融機関等は、福井弁護士会の調査過程で、A氏について反社会的勢力に属する前提での取り扱いをやめたが、北陸銀行、北國銀行だけは、A氏が反社会的勢力でないとの確信に至らなかった等として、対応を変えなかったため、遂に上記要望に及んだとのことである。

関心のある向きは直接、原典に当たられたい(但し、さきほど検索した範囲では福井弁護士会のHPには掲載されていないようである(語句検索に該当なし))が、心惹かれた部分に言及しておく。

1.まず、口座利用契約について、金融機関側の自由裁量ではないと指摘されていること。
当たり前だが重要である。
反社会的勢力であることを理由とした契約拒絶は数多あり(そしてそれを警察が濫用して詐欺罪で捜査する口実にしている)、裁判例では夙に有名な市営住宅、ライフライン設備や銀行、ETCカード、エレベーターの点検保守サービス、民間スーパーのポイントカード、はては露店の出店まで様々あるが、その被侵害利益が重大であれば重大であるほど、差別的取り扱いの許容度も狭まることは明らかである(被侵害利益が軽微なら差別的取り扱いが許されるのかは別問題であるが)。銀行に関して、その自由裁量が極めて狭いだろうことは論を待たず、こういうことをはっきりと指摘できるのが弁護士会の存在価値の1つであろう。

2.次に、暴力団組員該当性の事実認定について。
(1)福井弁護士会の発表資料によれば、福井県警が、過去の所属履歴については回答を拒否したが、現在の所属を否定する回答には応じた、という。
そして、「極めて信用性の高い県警の回答」と相容れない、「確信に至らなかった」等の金融機関側の回答を退け、弁護士会として、現在、反社会的勢力に属さないとの事実認定に踏み込んだとのことである。
(2)上記の限度で、議論自体には異論は無い。
ただ、「極めて信用性の高い県警の回答」を一人歩きさせることが危険であることには注意が必要である。
(3)おそらく福井県警の回答は、いわゆる暴力団情報データベースに依拠したものと思われるが、かつて広島弁護士会が指摘していたように(2016年10月18日付け同会、「暴力団情報データベース」に関する要望書)、同データベースについて、登録情報の正確性が担保される仕組みが採用されていないという懸念がある。
事実、私の取り扱い経験でも複数、不当に掲載されているという法律相談があり、受任して改善を求めても、先ず間違いなく無視されるので、その聞く耳を持たず、透明性を拒絶する姿勢からも、上記懸念は正しかろう。そのようなデータベースを金科玉条のように、特に「掲載されていれば間違いなく反社会的勢力だ」という方向で用いることは、危険であることは、指摘しておきたい。
なお、前掲広島弁護士会の要望書は、2023年10月に確認したときは閲覧できたが、現在は同会のHPには掲載されていないようである(語句検索に該当なし)。

3.県警の回答について。
上記の通り、福井県警が、現在限りで暴力団情報の回答に応じた、というのは、珍しいと感じるところである。
かつて、刑務所の職業訓練を受けたいのに、暴力団員だから離脱しなければ受けさせないという取り扱いを受けているが、暴力団員ではないので何とかして欲しいという相談を受けて、暴力団情報の23条照会を行ったところ拒絶され、弁護士会が督促したが、重ねて拒絶されたという経験をした。先方の回答は、最早記憶の片隅であるが、要は「回答に応じると暴力団員として把握されているかどうか探りを入れるのに利用されるからダメ」的なものであったと記憶している。
このような頑なな拒絶対応は、日弁連規模でも報告されている。
日弁連の2016年3月9日付け要望は、正に上述したような、誤登録による刑務処遇上の不利益取り扱いに対し改善を要望したものであるが、警察庁は、日弁連からの要望にすら、「特定の個人が、自ら暴力団員として認定されていること、あるいは、暴力団員として認定されていないことを知れば、暴力団の取締りに支障を及ぼすおそれがありますので、暴力団員等該当性に係る申立人からの問合せには回答しません。」と応じているのである。
(出典)
https://www.nichibenren.or.jp/document/complaint/year/2016/160309.html
このような経緯を知っていると、今回、福井県警が回答に応じたというのは、少し対応が変わってきたのかもしれない、と、珍しく感じたのである。

(弁護士 金岡)