地域差があるのかもしれないが、名古屋界隈では、刑事弁護費用をタイムチャージで取り決めている状況にはないと思う。
他方で、刑事弁護費用の取り決めを昔ながらの着・報の体系で行うことは、なかなか難しく、特に具体的に予想しなかった混迷を始めると費用対効果で割に合わないという思いをすることが頻繁である。かといって、最初から割高にすることは、依頼者の納得が得られづらいし、また説明自体も困難である。
前置きはこの程度にして本題に入ると、上記のような問題意識から、依頼者の了承を得て、1件、実験的にタイムチャージによる公判弁護費用の取り決めを行ってみたものがある。経過はややこしく、否認事件の中盤戦でかなりあくどい訴訟指揮を行う裁判官(証言予定未開示も度外視して尋問突入を強要)に抗するべく弁護団をすげ替えざるを得なかったので私にお鉢が回ってきて、証拠開示を一からやる、裁判官の強硬な訴訟指揮に対抗する、争点整理や基本方針の見直しを行うといった結構難儀な作業が求められる事案であった。
また、名古屋地裁本庁ではなかったため、移動時間をそれなりに要することも考慮する必要があり、実働1時間あたり3万円、移動1時間あたり1万円で、実験してみたのである。(一応、青天井もどうかと思ったので、タイムチャージ総額150万円に達したら費用体系を見直す選択肢も付してみた)
さて、受任してから1年8か月が経過した。
集計によると、(案の定、保釈後の再逮捕等々で予想外の作業は次々と発生し)
移動時間 57時間35分 63万3417円(×1万円基準)
作業時間 61時間35分 203万2250円(×3万円基準)
と、こうなった。
そして未だに、枢要証人の証言予定が提出されない段階の小競り合いである。
証言予定開示で揉めに揉めた上で尋問を想定すると、なお数十時間がかかることは請け合いであり、実費を除いても、最終的に500万円程度に到達することは明らかだろう。
しかし、上記の事案で着手金を「500万円」と設定することは、まず考えられないから、やはりタイムチャージでなければ割に合わない、とはなるのだろう。
昔ながらの基準が、曖昧に過ぎ、安すぎる、ということであり、着・報の体系によるにせよ、見合うだけの費用体系の確立に向けて更に検討、検証が必要そうである。
なお、上記実験は、考えてみれば20か月で260万円なので、月13万円、とも言い換えられる。月13万円で終わるまで引き受ける、という料金体系はありなのかどうなのか。これも要検討である。
(弁護士 金岡)