「情報技術の進展等に対応する刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」に関する衆議院法務委員会での審議が話題である。
流石に中継を視聴まではしていないが、大掴みで内容の分かるものを閲読して、まあまずい方向に話が進んでいるなと感じるところである。
消極意見を述べられた、坂口弁護士、指宿教授の各意見だけでも、幾つもの根本的な欠陥が突き付けられている。
例えば電磁的記録をごっそり収集することについて、事件と無関係のものを収集させない制度的な保障がないという指摘。軽微な事件でスマホを押収して、その内容を(当該事件とは無関係な部分まで)精査し、二次利用して別件を立件する手法が知られているが、このような濫用的な捜査手法について裁判所は殆ど放置している。おまけに、賛成側から意見を述べている研究者(京大の池田教授)は、仮に違法に収集されたとしても返す必要はあれど、削除しないことや二次利用が許容されるとすることは「今と変わらない」と開き直る始末であり、そうなると、「やったもんがち」である。
立法と令状審査の二段階で人権保障を全うする、という刑訴法の基本が、真正面からなし崩しにされようとしていることには、恐ろしさしかない。
また、被疑者に対し電磁的記録提供命令を発出して、これに従わない場合に刑事罰の対象とすることについて、黙秘権と抵触するのではないかという指摘。
前掲賛成側研究者は「言語による観念の表出を強いるものではない」から呼気検査拒否と同じことだと主張し、他の研究者(東大の樋口教授)も、本人の証拠隠滅が罪に問われないこととの均衡について、期待可能性の問題は後退させても良いのではないかと主張する。
指宿教授は、上記を含め、慎重な検討が足りず立法事実も全く提出されていないことを指摘されているが、その通りであり、「IT化」という、なんとなく良さそうな雰囲気を利用した、どさくさ紛れの法改悪が企まれているようにしか思われない。
他方で、少なくとも法案を読む限りにおいて、電磁的記録による令状請求資料がどのように保存されて間違いなく弁護人の証拠開示対象になるか、ということの担保は全く不明であるし(なお、賛成側から意見を述べた元検察官の方(国士舘大学の吉海教授)は、今回の法改正で、令状請求に用いた客観証拠は証拠開示の対象となるから、防御権保障に資すると指摘しているが、本当に令状請求に用いたデータ「そのもの」が丸ごと全て開示対象となるのだろうか?不安でしかない)、被告人を出頭させずに行う手続の、被告人側の(電磁的空間のその先の)環境がどのようなものかも具体像がない。
冒頭坂口弁護士が指摘されたように、捜査側の利便に資するものばかりで、人権保障を欠いた、という評価がぴったりである。
このような法改悪が駆け足で成立するようなら世も末であり、まあ、刑弁センターや学会を中心に、きっちりと咎めて頂きたいと期待する。
(弁護士 金岡)