【1】
季刊刑事弁護122号に件名の自著論文が掲載された。

主観的併合分離、つまり被告人が複数の事件の審理を一緒に行うか別々に行うかについて、弁護人の立場から論じたものだ。
もともと、同号で共犯事件に取り組む特集が組まれ、その一環として上記問題を取り上げることになり、裁判所側からの論文ばかりで弁護人側からの先行研究がなく、誰が研究しているわけでもないだろうという理由で御指名を頂いたと理解しているが、勿論、この問題について私が権威であるというわけもないし、より言えば、私が腰を据えて取り組んでいる間に周りがどんどんいなくなる経験ばかりなので、「分離してくれないで困った」という経験もない(「併合して欲しいのに分離されてしまった」と困ることはまあないだろう)。

従って、これまで様々な論文を書いてきた中でも、かなり困惑させられたお題ではあるのだが、折角頂いた機会なので言いたいことをそのまま書いた。
結論、分離が原則であり、更に重要なことは、分離後は裁判体も変えろ、ということである。主観的併合分離の論議をややこしくしているのは、分離後も同じ裁判体が担当するからにほかならない。そして分離後も同じ裁判体が担当することは、公正な裁判を保障する上であってはならない事態であり直ちに廃止するしかないというものである。

上記特集には座談会も組まれているが(高野隆先生、村岡啓一教授など論客揃いであるので必見)、高野先生もはっきりと「共犯者の事件をやった裁判官は忌避の対象にされてしかるべきではないか」と指摘され、そうしない実務には「心理学的に問題があるだけではなくて、裁判の正当性、信頼性にも重大な影を落としているような気がします」と指摘されている。また、関連論文として藤田政博教授が心理学の立場から、研究の難しさ等から安易に結論は下せないとしつつも(これは科学性を重視したのであろう)、「共犯者の先行する事件審理の影響が後続の共犯者の公判審理に出る可能性が高いと思われる」という結論を示されている。

裁判所を除けば、既に結論は出ている問題だとして差し支えないだろう。

【2】
なお、本122号には、私も参加している「量刑問題研究会」の、特殊詐欺の量刑に関する研究「上」も掲載されている。通り魔殺人関係で4本の論文を載せた後の5本目である。特殊詐欺の量刑について、まことしやかに流布している量刑基準が既に変動しつつあることや、その理論的解明について、取り組んだ成果物である。

【3】
あと、目を惹いた企画としては、現職裁判官が参加しての令状実務に関する座談会企画というものがある。
「バイナリデータ改ざん」で(本欄記事も)名を馳せた西尾太一裁判官が参加されており、自称「残念ながら少数派かも」の立場ながら、なかなか踏み込んだ発言をされている。
例えば事件が起きてからずっと捜査していた案件で、罪証隠滅できるんだったらとっくにやっているのではないかと感じて令状を却下した、とか、身柄拘束は被疑者の取り調べのためではなく、客観証拠で有罪に出来ないんだったら自白があろうと無罪は無罪という建前が破られたら手続法はおしまいだ、とか。

もう全く少数派なので笑えてしまうのだが、惜しむらくは民事畑の裁判官と言うこと。刑事畑の裁判官には、本企画(続き物のようである)を煎じて飲ませたいものだ。

(弁護士 金岡)