相談客の方から「その2はまだか」と指摘された。誰向けとも言えない本欄を御覧頂いていたのは有り難いが、汗顔の至りである。

ということで、病理現象と言うべき拒否事例を挙げてみたい。

1.まずは某著名料理店の対応。
その日の特定の時間帯に依頼者が同料理店を利用しアリバイがあるのではないか、という観点から、依頼者の利用履歴の有無を照会した。
そもそも、利用履歴は個人情報だから、個人情報開示請求を行ったのだが、無視された。無視では仕方がないので弁護士会照会を行うも、無視。弁護士会から督促を行ってもらったところ、「繁忙な時期なのでいちいち記録は残していない」という説明だったらしい。
そこで仕方なく(そこそこの事件だから警察も動いていると想定して)検察側に証拠開示を請求したところ、別の日に関し、詳細な利用履歴が提出されていることが判明し、前記弁護士会への説明が嘘である可能性が高まった。
ここまで来て、裁判所を通じた照会をかけたところ、予約状況や支払い状況まで回答がなされたのである。
個人<弁護士会<<(越えられない壁)<警察=裁判所、というところか。

2.次に某大手携帯通信会社の対応。
同社は、弁護士会照会に対し拒否的であることで知られる。例えば明らかに犯罪加害者の使用する携帯電話番号が判明しており、そこから損害賠償請求のための契約者情報を追跡したいような場合でも、同社の契約だとそこで被害回復の道が閉ざされる(近時、確定判決の債務名義があれば回答に応じる、やや改善があった模様だが、そもそもそこにたどり着くためには照会が必要な事案の方が多いのだ)。
今回は、同社の携帯電話の特定の基地局が何メートル圏内か、の照会だったが、回答を拒否された。まぁ、企業秘密だと言われればそうだろうと言うことで、同社がHP上で公開している何種類かの電波塔のどれかの限りで回答を求めたが、やはり拒否。電波塔の種類を公表しているのだから、そのどれかくらい答えてもさしたる害があるとはとても思えないのだが・・これも刑事事件のアリバイに関わることであり、人一人の有罪無罪と引き替えにするには、余りにお粗末な対応であった。

3.最後に某市税事務所の対応。
依頼者が納税時に、正確に生年月日を申告していたかが問題となったので、納税記録から申告時に記載された生年月日の回答を求めたものである。
同事務所の初期対応は「本市の取扱いにおいては、・・照会に応じることができません」という、一律対応拒否と思われても仕方のない回答拒否であり、そこで弁護士会を通じ、説得を試みたところ、弁護士会の理由説明要求に対し、「事件の依頼者の利益のために、私人の秘密を犠牲にすることになる・・犯罪が成立する」との内閣法制局の見解に依拠することが明らかにされた。
自分自身の納税記録中の生年月日の記載を照会することが「犯罪」とは!と、さすがに驚きを禁じ得ず。というかそもそも、「事件の依頼者の利益のために、私人の秘密を犠牲にすることになる」というけど、この場合の「依頼者」と「私人」は同一人のことだから対立関係にないでしょうが、と思い、更に弁護士会に説得を上申。あわせて、内閣法制局にも問い合わせを行ったところ、同「見解」が、一律回答することが犯罪であるなどと言う極端な内容ではなく、「事件の依頼者の利益」の正当性を見極めるべきことや、「私人の秘密」の開示がその意に反するかどうかが考慮要素となっていることが明らかであることも判明し、それも踏まえてさらなる説得を試みた。
これだけやって、ようやく、先方から生年月日の回答が来たのである。実に3ヶ月が経過していた。
この事例など、市税事務所に悪意があったわけではなかろう。要するに内閣法制局が回答は慎重にという姿勢表明をしたばかりに、慎重にやるなら一律回答しなければいいじゃないかという思考停止に陥っていることが見え透いている。つまり、保身ばかりで、弁護士会照会の公的意義というものを考えていない。

4.まとめ
どれもこれも、私に言わせれば、自分の頭で物事を考えようとしない、ましてや、弁護士会照会制度が弁護士制度の存立という社会基盤に関わると言うことを考えず、事なかれに走り、ついでに言えば(私人の団体に過ぎないからか)弁護士会を、公権力より明らかに劣位に置く姿勢が露骨である。
弁護士の調査能力を害することが、最終的に自らの首を絞めかねないことを、考えてもらいたいとつくづく思う。

(弁護士 金岡)