御存じの方も多かろうが、近時、勾留却下率の上昇が話題である。
平成26年11月17日決定を皮切りに、平成27年10月まで、最高裁が1年半の間に3件も、勾留却下を追認する逆転決定を出す異例の事態の中、却下率10%越えとか、却下率3倍と言った景気の良い数字の報道、さらには東京地裁で痴漢事件は原則勾留しない運用が定着しているという報道まで(尤も最後の報道は、裁判官独立の観点から、些か眉唾ものである)、裁判所の意識改革が進んでいるかの如くである。

私も、身体拘束裁判に対しては10年以上前から工夫を重ねた取り組みを続けてきた自負があり、犯人性や共謀を否認する案件で準抗告による釈放を得てきた積み重ねを報告したこともある(季刊刑事弁護58号)ので、このような動きには関心が強い。当初決定段階で、担当裁判官が、10日「も」身体拘束することへの慎重さと、釈放しても大過ない事案の方が圧倒的であることへの確信を持って、ことにあたれるように変わりつつあるなら、歓迎すべきことである。

さて、自身に話を移す。ここ2年ばかりで、3件の勾留却下決定を得たが(記憶によれば「最高裁」前が2件、「最高裁」後が1件)、うち2件は検察準抗告により覆るという悔しい思いをした。弁護人は、裁判所と違い、覆って釈放されなかった依頼者と、その後も顔をつきあわせるので、なにもすることがない手持ちぶさたを事後的に確認できるだけに、虚しさもひとしおである。

去る17日、故意否認の案件で、勾留却下決定を得(つまり、ここ2年ばかりで4件目となる)、検察準抗告もされたが、幸い、準抗告棄却により事なきを得た。
初めて依頼者と面識を得てから約27時間の釈放劇には、依頼者からそれなりの信を得、依頼者周りの人間関係に立ち入り環境を調整しつつ、資料と意見書を作成し、他方で釈放されない場合にも備えた立ち回りをほぼ半日以内に遂行することが要求される(釈放される前提の話ばかりを進めるわけにいかないことは容易にわかるだろう)ため、刑事弁護の醍醐味が詰まっていると言える。手慣れていても容易ではなく、成果が上がれば刑事弁護人冥利に尽きるものである。

余談であるが、上記4件のうちの、もう1件の覆らなかった案件は、逮捕された被疑者の配偶者がすぐに、刑事弁護に強いと自称する法律事務所に相談に行ったところ、依頼を受けるには即金で60万円を持参するよう言われ、依頼を断念し、その帰り道、ダメ元で弁護士会の開設する法律事務所に駆け込んだ経過をたどり、私の下へ来た案件である。勾留却下がかかっている事案で料金先払いにこだわり時間を浪費することは、文字通り命取りの危うさを孕む。このようなことで時間を浪費し時機を逸する程度の判断しかできないなら、到底、刑事弁護に強いとは言えないだろう。看板に偽りがある、と嘆息したことを覚えている。

(弁護士 金岡)