既に報道されているように、刑訴法改正案が成立した。
盗聴範囲の拡大と要件緩和、司法取引は、必ず弊害がもたらされる。密かに、反対尋問権の更なる制約も進んだ。これに対し得られたのは、検察官手持ち証拠リストの開示と、限定的で中途半端な取り調べ録画制度である。
私の立ち位置は既に本欄5月13日で述べているとおりであるが、ここで再度、触れたいのは、弁護士会の姿勢である。
日弁連会長は「全体として前進」との声明を出したし、刑事弁護センターも全体としての賛成方針を変更しなかった。
政府参考人の答弁により、取り調べ録画制度の後退姿勢が際立った中でも、刑事弁護センターや日弁連が踏みとどまろうとしなかったことは、歴史的汚点と言うべきだろう。
例えば海渡雄一弁護士は、5月10日付けで意見書を公表され、「この期に及んで、現在の法案をそのまま成立させてもよいという立場をとり続けることは、これまでの日弁連の立場・・を前提にしても許されないはずです」「初心に戻って欲しい」と発言されている。もとより私も、全面的にこれを支持する。
前記後退姿勢が際立った中でも成立に突き進んだ姿勢を正当化する余地はない。
私も、ささやかながら抗議の意思を表明するべく、刑弁センターに対し辞表を提出したところである。手がけていた複数の企画を放擲してセンターを離れることは心残りであり遺憾であるが、このような組織に所属し続けることの恥ずかしさの方が遙かに勝る。
6月3日追記
辞表提出後、(刑弁センター委員長には快く受理頂けたが)複数名の方から慰留を頂いた。中には面識のない方もおられたし、「自分が代わりに辞めるから」と仰った方もおられた。言いたいことだけ言って投げ出すことを思えば、身に余ることであり、恐縮の至りではあった。
とはいえ、(詳細は省略するが)組織体として立ち止まるべきであるのにそうしなかった、少なくとも立ち止まるべきかを検討する必要があったのにそうもしなかった、という事態は重い。海渡弁護士の意見書や、私のように再度の議論を求める内部の声も複数がある中、なぜ、そのように出来なかったのか。
慰留頂いた方々は、おそらく内部にとどまり、反対すべきは毅然と反対する気概をお持ちだと思う。私は愛想を尽かしたが、辞表騒ぎを起こしたことで今後は少しは風通しよく、原点に立ち返った組織に立ち直っていくことを期待したい。
(弁護士 金岡)