裁判員裁判では、検察官は3名体制で臨んでくることも多く、弁護士会も、国選事件では原則2名体制にすることを裁判所に求め、現状まで受け入れられている感がある。複数にすれば、それだけ手厚く、分業も出来、良いことずくめに思える。

しかし、である。
一つの事件で分業体制を敷くと言うことは、言うほど簡単ではない。結局は事件の全体像を把握し、一つの方向に向けて処理していくのだから、個々の弁護人が完全に部品になるということは、先ず無理である。確かに、大量の電話履歴を整理する担当を決める、といった限りの分業なら有り得るが、内容に立ち入らない整理整頓であればともかく、方向付けられた整理ともなると、その方向が正しいとは限らないから誰かが責任を持って統括する必要が出てくる。かくして分業は成り立たない。裁判所は、複数弁護人がいるなら分業できるでしょうと当然のように言うが、そんなことはない。裁判所だって、証人Aの信用性は右陪席、被告人供述の信用性は左陪席、といった分担はしないはずだ。

また、依頼者から見た場合、それぞれの弁護人の説明が微妙に異なると困惑するだろう。「このまま黙秘していて大丈夫ですか」と弁護人に尋ねて、「大丈夫」という弁護人と「不利になることもあるかもね」という弁護人に割れた日には、最悪の事態である。
全体像を把握するためにも、依頼者に不安感を抱かせないためにも、全弁護人が揃わなければ進めない、ということを当然の前提とする弁護士もおられるやに聞くが、正しいと言うべきである。

まして、弁護人間で足並みが揃わなかったり、互いの信頼関係がない場合は、最初から空中分解が約束されているようなものだ。苦い記憶として、3人交代で連日接見する手順であったところ、一人が担当日をサボり、よりによって、その日に、依頼者が虚偽自白に陥ってしまったことがある。挽回には非常な苦労が要求され、当該弁護人も証言台に立つ羽目になった。
依頼の経緯から親しくもない弁護士と組まなければならないことはあるが、方針の統一にせよ、指揮命令系統にせよ、よほど気を配る必要があると思ったものだ。このような場合は、軌道に乗るまで(信頼関係が出来るまで)常に全員で行動しなければ危険である(足を引っ張られる危険を感じるなら、引き受けない方が無難である。既に選任されていた弁護人の解任を条件に引き受けたことすら、ある。)。

過日、飛び込みで相談を受けた件は、依頼者から3名体制での弁護を要望されたが、上記のような懸念から、謹んでお断りした。
一見、良いことずくめに見えるが、複数弁護団体制というのは非常に難しい。
他方で、複数名による手厚い体制がなければ乗り切れない事件があることも事実である。
となれば、日ごろから何名かの「同志」を確保し、複数弁護団体制を必要とする場合はいつもの面々に手を挙げて貰う、ということにせざるを得ない。数名なりと、ぱっと御願いできる弁護士がいるといないとでは大違いである。地域の規模もまた、ものを言う。

(弁護士 金岡)