食料品の万引き前科(のみ)多数、仮釈放中に再犯、出所して再犯、と聞くと、何か病的なことを疑って損はない。もし治療対象であれば、刑事裁判で服役必至を選択するより、治療し、再犯に及ばなくする試みが理に適っている。

「お店に向かうところから記憶が無いと供述しているがどうしたものか」と担当弁護人から相談があったのは、逮捕から5日目。経歴と状況から精神障害を疑い、正式に受任の打診があった同8日目、早速接見に行った(本当であれば相談があった日に行きたいところだが、親族や担当の意向を無視することはできない・・)。
常習的な万引きというと、「クレプトマニア」に飛躍する向きもあるが、私は原因疾患をもっと多様に捉えている。大ざっぱに言えば、日常のストレスと、それへの耐性に乏しい何らかの精神状況により、行動化し得る、くらいに考える。過去の経験では双極性障害、躁病、解離性障害あたりが、常習的な万引きと親和的に作用した記憶である(この種の精神障害が犯罪に至りやすいという趣旨ではない)。

本件も同様に見立て、依頼者の記憶、主張を守り抜き、精神科につなげることを目標に取り組もうと考えた。余談だが、この程度(と言うと、お店には悪いが・・)の事件でも警察の自白圧力は強く、「ストレスを言い訳にするのは印象が悪い」「弁護士と警察のどちらを信じるのか」等と喧しいこと。接見に行く度に抗議文を出す手間暇を惜しんではならない。

さて、本件では幸い、検察官の理解に恵まれ、(見立てた病気は異なるようだが)治療的処遇はどうかという示唆が担当弁護人(つまり紹介元)に寄せられた。そこで、起訴されること自体を避けて治療的処遇に進む方針で、積極的に検察官に情報提供し、折衝することとなった。周知の通り、出所後、間もない再犯では、実刑しかないというのが我が国の刑法体系である(本年6月からの一部執行猶予制度も大部分が実刑である)。起訴自体が避けられれば、すぐに治療に入れるので、理に適っている。
治療の受け皿となる精神科医を見つけ、予約を取り、検察に報告し、その日を期して釈放を求める。勿論、親族らや本人の理解、意思確認も怠りなく。

かくして、依頼者は釈放された。初回接見から9日目であった(検察側との協議は紹介元の先生に一任した。従って、その力量に負うところが多かったことは言うまでもない)。
執行猶予のための弁護活動に関する座談会(季刊刑事弁護87号所収)に参加させて頂いた折りに、検察庁でも入口支援に体制を充実させていることを教えて頂いたが、この事例も、その流れで理解できよう。治療的処遇に理解を示した検察官の好判断である。
依頼者は入口に立ったばかりなので、これからの支援が大切になることは勿論である。更に余談になるが、国選弁護人だと釈放と同時にお役御免になる。弁護士会が用意している委託援助も身体拘束が前提なので、釈放後は依頼者の自腹でしか弁護人の選任ができない(が、元国選がこれをやると対価受領と言われかねない)。別途の私選を探すか、元国選が無償で続投するか。いずれもかなり手薄である。弁護制度の立ち後れが顕著というべきである。

以上の弁護活動は、どれ一つをとっても特別なものではない。
ただ、手際よく数日でやるとなると、難易度は跳ね上がろう。その数日が依頼者の生死を分ける。「リーダーズネット」(前回コラム参照)にひっかけていうなら、すぐ動き、手慣れた弁護士の選択が肝要だと言うことになる。「リーダーズネット」の存在意義、理念は、あらためて強調しておきたい。

(弁護士 金岡)