毎日新聞の本年12月28日付け報道によると、愛知県は侵入盗の件数において群を抜いており、それを受けて「県警は今春、名古屋地検や名古屋地裁に対し、侵入盗で起訴された被告への求刑や判決の量刑を重くするよう要請した。初犯でも執行猶予を付けないようになどの内容で、実際にそうした判決も出ているという。」ということである。
http://www.excite.co.jp/News/society_g/20161227/Mainichi_20161228k0000m040126000c.html?_p=2
正直なところ、この報道を見るまで、県警が地裁に要請をしていたなどとは全く知らなかった。口幅ったいが、私の耳に入っていないということは、まず間違いなく、弁護士会に知らされたりはしていないだろう。
この点、県警が地検に要請することは構わないだろうし、地検が意図的に求刑を重くすることも、従来との量刑の均衡や悪情状の立証程度が踏まえられた適切な審理を前提とする限り、許容範囲ではあろう。
なお、余談だが、確かに最近、検察庁が組織的窃盗事犯の多発状況について、捜査報告書や警察官証人を通じた立証を試みようとする事態が目についていたところである。弁えのある弁護人はそういった立証に反対するだろうし、弁えのある裁判官は、そういった警察官証人を採用しない。なぜなら、警察官証人が「組織的窃盗事犯の多発状況」を証言することは、同人の直接経験しない事項に係る伝聞証言に他ならないからである。弁護人が「私の経験上、刑務所に入れるよりも社会内で処遇する方が再犯率は低いですよ」と証言しても全く宛てにならない話であるのと同様、偏った立場の、検証不可能な一般論に耳を傾けることは適正な裁判とは対極である。
さて本題。
県警が特定の事件類型について、地裁に量刑を重くするよう要請する。ここには非常な如何わしさを感じるところである。
1.そもそも、偏った立場の、検証不可能な一般論に耳を傾けることは適正な裁判とは対極である。ましてそれが、(1)証拠に基づく証明を経るどころか、裁判外で行われているにもかかわらず裁判所の心証形成(量刑判断)に影響を与えるとすれば、証拠裁判主義に反することが明らかである。また、(2)被告人に防御機会が無いことに照らせば、適正手続違反にも相当する。加えて、(3)裁判外の偏った情報に汚染された裁判官に公平な裁判は期待できないことからすれば、忌避されるべき裁判官による裁判であり、必要的破棄事由(刑訴法377条2号)である。
2.従って、地裁が、このような要請行動を門前払いせず、(同調するかどうかではなく)耳を傾けること自体に、問題があると言えよう。地裁は、どのような要請行動を、どのように受け入れたのか、その内容を公開すべきである。
3.もし地裁が、上記要請行動を各裁判官に周知したとすれば、裁判官の独立に関わることも指摘しなければならない。
なるほど、多様な言論は保障されており、裁判官にも学習機会は保障されるべきである。従って、死刑廃止団体が死刑反対意見を裁判所に向けて表明したり、日弁連が死刑廃止決議を裁判所に参考送付したり、逆に被害者団体が死刑判決が抑制的であると批判したりすることは、内容と方法に相当な弁えがある限り、一概に否定は出来まい。
しかし今回の場合、報道の字面を見る限り、「量刑を重くするよう要請した。初犯でも執行猶予を付けないようになどの内容・・。」であるから、かなり具体的である。社会内処遇よりも応報を重視すべき実態があるという主張を吹き込んでいることは想像に難くなく、しかしそれは、適正手続の下、審理され、個々の裁判官が、憲法及び法律、良心に基づき、決定すべきことである。
弁護士会は、このような事態には敏感に反応し、情報収集の上、必要な対応を取るべきである。また、裁判所は速やかに、弁護士会に情報を開示しなければならないと考える。
そもそも、弁護士会の与り知らぬ所で、県警と裁判所がこそこそと密談している、というだけでも、十分に問題であり、メディアを通じて驚いている、このような事態が再発しないよう、手当していかなければならない。
(弁護士 金岡)