1.近時、2件で在留特別許可を得た。
(1)うち1件は、先日本欄で紹介した名古屋高判平成29年3月16日(藤山雅行裁判長、上杉英司裁判官、丹下将克裁判官)の事案である。国側上告なく確定し(国側は形勢不利とみるや上告しない。その結果、国側に不利な最高裁判断は回避される。)、確定から2週間足らずで在留特別許可に至った。
(2)もう1件は、未成年当時、ブローカーの手引きにより他人名義の身分証で来日、失敗するも再挑戦して成功、水商売系のお店で働かされ(風営法違反・労基法等違反である)、出会った男性に数百万円で身請けされ在留特別許可を得るも、その後、離婚し、不法残留後、別の日本人男性と婚姻したという、絵に描いたような人身取引被害事案である。
国側に言わせれば(国側は、このような事例でさえ、人身取引被害を認めようとしない。裁判所も、まだまだ同類である観がある。だから日本が人身取引天国だなどと揶揄されるわけだが。)、退去強制前歴ありの不法入国事案であり、相当悪質である、ということになる。幸い夫婦仲が良好で、裁判中にお子さんが生まれたところ、裁判所から「いまさら原告(お母さん)だけ帰国させてもどうかと思う」として見直しへの働きかけが行われ、ものの一月半で処分の見直しに至ったものである。
2.「在特義務付け訴訟」について
(1)ところで、上記2件目は、処分時後の事情変化により処分が見直され救済されたものであるが(裁判所は、取消請求自体は苦しいと述べていた)、無論のことというべきか、国側が自主的に見直そうとすることは殆ど無く、裁判所の働きかけという要素が大きい。
もし国側が自主的に見直すことを拒んだ場合は、処分時当時の事情では不許可であるとしても事情変更により許可されるべきだという、義務付け請求を起こしていくことになる。
即ち義務付け請求は、処分時主義を抱える取消訴訟の致命的な制約を克服するために活用できる。いつぞや、「小5の年齢なら、まだ帰国してもやり直しがきく」等として在留特別許可が認められなかった取消訴訟を担当したが、判決時点で依頼者は高校に上がっていた。いまや高校生の彼の、送還の是非を議論するのに、「小5」の年齢を前提にしなければならないという分かりやすい欠陥は、その後の在特義務付け訴訟で克服され、裁判所の働きかけを得て彼には在留特別許可が得られたものだ。
(2)なぜ、このような話を紹介しているかというと、(グーグル検索で、それっぽい用語を用いて検索すると上位に現れる)某法務事務所のHPによれば、のように書かれているからである。
「多くの事例では、在留特別許可を与えるように訴えています。いわゆる義務付け訴訟と呼ばれる類型です。しかし、裁判所は、在留特別許可の義務付けを認めていません。すなわち、裁判で在留特別許可を得ることはできません。過去に多くの事例で、この手の論理を用いて多くの裁判が提起されました。全て退けられています(却下)。義務付けを裁判で争って、在留特別許可を得た事例はありません。」
この記述は、殆ど全くが間違っている。善解しても、かなり間違っている。
御丁寧にも義務付け訴訟は「全て(不適法)却下」になると断言されているが、そこからして違う。この問題に関して、私は第一人者を名乗る資格があると自負するが、行訴法が改正され義務付け訴訟が法定化されて以降、現在に至るまで、裁判例は分かれているとはいえ、こと名古屋地裁では不適法却下はされていない(細かい議論は次のコラムで紹介するが、少なくとも「撤回義務付け」が適法である)。
また、「義務付けで在特を得た事例はない」と断言されているが、名古屋地判平成25年10月3日が「・・在留特別許可をせよ」との主文を宣告し、確定している。
この行政書士事務所に記事の削除を求める必要があろうが、削除情報でもウェブ上に残り続けることを考えると、正しい情報を提供するしかない。
次のコラムで、正しい情報を提供したい。(その2に続く)
弁護士 金岡