近時、標記の決定を御紹介頂いた。無論現時点で公刊物未登載である。
なかなか味わい深い決定であり、学際的関心もそそられる。ついては、本欄で紹介したい。
事案は、とある業法違反(無許可営業)であり、被疑事実は「平成29年X月Y日」の無許可営業事実であった。
事件から2日後 勾留決定
10日満期に勾留延長決定
検察官は、①押収物等精査未了、②共犯者取調未了、③関係者取調未了、④被疑者取調未了を理由に10日延長を請求していたが、裁判所は、証拠物検討未了及び関係人取調未了を理由として10日の延長を決定した。つまり、少なくとも④被疑者取調未了は明示的に延長理由から除外された。
なお、弁護人による勾留延長に対する準抗告は棄却されている。
さて弁護人は、勾留延長6日目、上記の通り明示的に延長理由から除外された被疑者取調が敢行され、しかも、取調官である検察官が、黙秘権行使に対する不利益扱いを示唆したり弁護人との信頼関係を破壊しようとしている等の黙秘権侵害、弁護権侵害を理由に、同8日目、勾留取消を請求した。
実は、弁護人からは、要旨、明示的に延長理由から除外された捜査が行われていることは勾留取消理由になるだろうか?等の相談を受けていた。
考えたことがなく興味深い問題であったため、あれこれ議論につきあった結果、延長理由以外の捜査が全くやれないかどうかはさておき、明示的に除外された捜査については、そのために身体拘束を利用するのは違法になるはずだと考えた。
そして、弁護人によれば、延長理由とされた事項は、取消請求時点では既に尽きたか若しくは勾留満期までに尽きるものではないから事後の勾留を正当化し得ないということであり、そうであれば、(被疑者調べがそれのみでは勾留理由に出来ないという議論はさておいても)明示的に除外された捜査項目(本件では被疑者調べ)のためだけに延長後の勾留状態が継続されることは違法であり、仮に同捜査の必要性があるとしても、勾留取消は認容されるべき(どうしても積残しの捜査があるなら、当初延長理由が尽きた以上、別途の延長請求を行う他ない)、と考えてみた。ことが被疑者調べであるだけに、やや問題が見えづらいが、定式化するなら、「明示的に延長理由から除外された捜査項目の必要性を主たる理由に勾留状態を維持することは違法である」というところである。
さて、裁判所がどのように判断したかは、次回、紹介したい。
余談。
今回のように専門家から意見助言を求められることはしばしばある。こういう場合、積極的に対応すべきだと考えている。知的財産を独占するというのは了見が狭く、時間や手間暇を割いてでも、自己研鑽に繋げる方が得策である。一緒に考えれば議論も深まり、それが全体としての業務水準を押し上げるなら、自分にも得るものは沢山ある。世に専門家と言われる弁護士は沢山おられるだろうが、是非、自身の築き上げた知的財産を出し惜しみすることなく、共有していって頂きたいと思うものである。
(その2・完に続く)
(弁護士 金岡)