「勾留準抗告を棄却されたので特別抗告するため、決定書を取りに金曜深夜、郊外の支部の当直まで車を飛ばした」

頭の下がる迅速果敢な行動である。
のだが、情報通信技術の発達した時代において、なにかおかしくないだろうか。

決定書を取りに行くのは、なにより、不服申立のためには内容を知らなければ始まらないからである。逆に言えば、内容が分かれば、不服申立の書面の作成に着手できる。
金曜に準抗告棄却内容が分かれば、土曜日に依頼者と打合せて補充し、日曜に書面を作成し速達で発送、月曜から事件処理の流れに乗せられる。
これに対し、のんびり決定書の郵送を待って(金曜夜の決定だと、月曜か火曜到着)、それから準備に着手していては、事件処理の流れに乗せるのが2~3日、遅れる。もし特別抗告が認容されれば(ここ数年で4件程、特別抗告での釈放案件がある)、この2~3日の遅れは申し訳が立つまい。
なので件の弁護士は車を飛ばしたわけである。

しかし、決定内容を知るだけなら、ファクス一本で足りる。正式な送達は無理でも、内容が分かれば作業を進められる。
裁判所は、自分が急ぎたい時は、決定書でも謄写対象の訴訟書類でもファクスで送りつけ、さっさと検討しろと迫る。しかし、弁護士が急いでファクスで欲しいといっても、「前例がない」「やってない」等と冷淡に対応する傾向がとても強い。自分勝手も極まれりと言えるだろう。
件の弁護士も、ファクスで決定書を送付するよう求め、例のごとく,「そのような実例は確認できなかった」,「他の支部にも問い合わせたがやっていないということだった」とあしらわれたという。件の弁護士は過去に、この支部で決定書のファクス送付を受けた経験をお持ちであるのに、である。

さて、この問題については、私も相当の蓄積を持つと自負する。あちらこちらの裁判所で、勾留状謄本や決定書のファクス送付を受けた経験を記録し、各地の研修で吹聴して回っている程である。
名古屋地裁本庁管内に事務所を持つが、そもそも名古屋地裁本庁からのファクス送付例も複数件ある(決定当夜は取りに行く時間がないのでファクスを入れて貰い、翌朝、確認して起案をする等する。いまどきなら、ファクスデータを事務所外からネットワーク経由で確認できる技術もある。)。前記弁護士の経験談のように、裁判所は平然と、前例がないという「嘘」をつく傾向が強いので、ファクス送信履歴入りの「証拠」も保存するよう心がけている。いま手元にあるのは、例えば2014年●月●日(金)15時台の送信履歴入りの名古屋地裁本庁からの決定書PDFである。
また、ぱぱっと調べられる範囲で、岐阜県多治見支部、愛知県では豊橋支部、岡崎支部、瀬戸簡裁からのファクス経験もある。
理を尽くして説けば(と、先日来宣伝している研究書19頁のコラムに載せたが、)裁判所も、身柄拘束の裁判が速やかに扱われなければならず、そのためには、のんびりと書類の遣り取りを郵送でやっている場合ではなく、ファクスを活用してでも、人身の自由を保障するという憲法に忠実な裁判運営をしなけばならないことは分かるはずなのだ。だからこそ、このように沢山の実例が蓄積されているわけである。
件の弁護士のように、自己犠牲の精神で車を飛ばす。それはそれで素晴らしいことだが、世の中には、執務環境的に、それができない弁護士もごまんといる。また、そうでなくても、その労力はファクス一本で回避でき、空いた時間で打合せでもすれば、なおより、迅速に進む。
もし本欄を見ておられる裁判所関係者がおられれば、是非、このことを心に留めて頂きたいものである(憲法に忠実な、褒められるべき裁判運営をされている裁判官を実名で登場させると、逆に叩かれるのではないかと心配し、御名前は出しかねる。批判をする時は実名、褒める時は匿名というのも、変な社会である。)。実例は沢山ある。そして憲法に忠実なのは間違いなくファクス活用派である。躊躇う必要は皆無である。

なお、金曜深夜に郊外の支部へ車を飛ばした弁護士の報告によれば、当直で決定書を受領することについても「今回は特別」と恩を着せられた(しかも、自動車は裁判所構内に入れないでくれとあしらわれた)という。「魔境」と嘆いておられたが、宜なるかなである。私の経験上も、「事務所にいるなら自転車で5分、当直まで取りに来て下さいよ」と言われてファクス取り寄せを遠慮したことはあるが(容易な代替手段があるなら濫用すべきものでもない)、当直まで取りにくるのも駄目(=月曜の営業時間を待て)等という傲岸不遜、厚顔無恥な扱いを受けたことは、流石にない。
折角だから公開しておくと、これは名古屋地裁岡崎支部の話題である。私もファクス送付を受けた経験のある庁である。随分と嘘つきに、そして悪い方へ変容されたようだ。

(弁護士 金岡)