近時、起訴前鑑定留置に対し「不必要」の立場から弁護活動を展開する機会を得た。現在進行形の事件でもあるので、罪名は「裁判員対象罪名」という程にしておくが、結論を先に記すと、
1.弁護人の反対にも関わらず検察官(井川貴文検事)は鑑定留置請求を敢行し、
2.名古屋簡裁(阿部照彦裁判官)は3ヶ月半の期間を定めた鑑定留置決定をし、
3.理由開示公判を請求するも凡そ適法な理由開示がなく、
4.決定に対する準抗告が一部認容され3ヶ月半が3週間に短縮された、
5.検察官は直ちに期間延長請求に及ぶも今度は名古屋簡裁が却下し、
6.検察官の準抗告は不適法を主たる理由として棄却された、
という結果が得られた。
(12月23日 追記)6番のあと、その翌日、検察官は再度の鑑定留置請求を行い、名古屋地裁がこれを却下すると同日の深夜に準抗告を申し立てた。先ほど、これも棄却された。(追記 終わり)
準抗告を鑑定留置決定から15日目の金曜日に申し立て、19日目に一部認容決定、その結果、翌々日の21日目をもって鑑定留置は終了することと相成った。約3か月も短縮され、決定から2日で終わりを告げるということからも、準抗告審裁判所(4番)がどのような心証を持ったのか、推し量れるところである。
検察準抗告の棄却(6番)と21日目の期限到来とは、ほぼ同時だった。
いったい、鑑定留置に対する準抗告は事例自体が少ない(その原因は、捜査段階における弁護活動の目標地点、起訴不起訴と有罪無罪との二重の基準を考えれば察しはつく。しかし、黙秘権行使の重要性が再認識される現在では、理論的に考えて、今少し実践が増えても良さそうなものである。)。
鑑定が不必要不可能という争い方、鑑定はともかく期間が長すぎるという争い方程度が思いつくが、特に前者は、そうそう、お目にかかれるものではない(逆に後者は、考えてみれば、実践例が少ないのはかなり違和感があり、弁護側の責任が大きそうである。)。
私の経験上も、「弁護人が先んじて私的鑑定を完成させたから起訴前鑑定留置は不要」と主張した珍しい事例(但し準抗告には至っていない)を除くと、鑑定留置を本格的に争う必要に直面したのは今回が初めてであった。
しかし、いざ争おうとなって考えてみると、鑑定留置の弊害は著しいものがあると気づかされる。特筆すべきは、その期間の長さである。起訴前鑑定留置となると2か月3か月がざらであるが、不起訴を求めて20日勾留が最大だという時に、2か月3か月と身体拘束されると言うこと自体が、かなり異常である。弁護人として、これに慣れてはいけない(なので、期間が長すぎる的な争い方はもっと実践されて然るべきと考える。「その2」で紹介する、堺支部地裁の決定はもっと知られるべきであろうし、岐阜地裁決定も極めてもっともな指摘をしている。)。
2か月3か月が、まじめに活用されるならまだしもであるが、経験的に、どれもこれも、最初の1週間2週間と、いっかな医師が面会に来ないということが多い(今回の事例もそうであった~というか、結局21日間1度も来なかった)。取り調べへの転用は論外としても、捜査期間の嵩増しや、従順でない被疑者の心を折りにかかっているのではないかと疑われる節がある。
「その2」では、条文的なおさらいと、先例となる決定例を紹介したい。
(その2に続く)
(弁護士 金岡)